あやかしごはん After Story 謡

真夏の店の前を通りかかると、真夏から「いつもご贔屓にしてもらってるお礼」だと言って、芋を2個貰った。
(オレと、あいつで半ぶんこだな)
あいつと2人で、紅葉神社で焼き芋でもしよう。
そんな事を考えながら田舎道を歩いていると、見慣れたあやかしが2人、通りかかった。
それが座敷童と一つ目小僧だと、すぐに気付いた。
「あっ、狛犬だ!」
「うるせーよ、気易く呼ぶな!」
オレを見て無礼にも指をさしてくる一つ目小僧に、オレはケッと悪態をつく。
すると座敷童は、ぴょこぴょことオレに近づいてくる。
そして目ざとく、オレが手にしている芋に、らんらんとした目を向けてきた。
「芋ー! 芋だー! おいらも食べたいぞー!」
「~♪」
「いや、ダメだって。これはオレとあいつで、焚火をして焼くんだから」
「えーっ、くれないのか? ケチな狛犬だなぁ」
「け、ケチ……!?」
仮にも高貴な狛犬様をケチ呼ばわりとは、なんてやつらだ。
少ししつけが必要だと、オレは腕まくりをする。
するとそこへ、「謡」と、聞き慣れた声が聞こえてきた。
振り返ると、そこにはあいつの姿があった。
「ちょっと、謡。その子達をいじめようとしてたの?」
「え? い、いや、これは……」
状況を説明しようとするものの、オレが作った握りこぶしを見たあいつは、オレをじとーっと睨みつけてくる。
しかも、一つ目小僧達が「狛犬にいじめられた~!」なんて騒ぎ立てるものだから、あいつのオレへの疑いはますます深まっていくばかりだ。
「謡ったら、小さい子をいじめたらダメよ」
……なんて、ますます睨まれてしまう。
(くそ、この疑いを晴らすには……!)

* * *

紅葉神社のド真ん中に移動したオレ達。
境内に集めた枯れ葉の中には、芋が二つ埋まっている。
「わーい、焼き芋焼き芋~♪」
「~~~♪」
焚火の炎を眺めながら、座敷童と一つ目小僧は楽しげに歌い踊っていた。
その様子を、あいつも微笑ましそうに眺めている。
(なんでこんな事に……)
2人でしっぽり、焚火を楽しもうと思っていたのに。
それなのに、なんでこんなコブが2つも付いてしまったのか……。
(おまけにオレはこいつに、あやかしいじめの疑いを持たれてるし。何だってんだよ)
オレは苛立ちを感じながらも、焚火の中に埋まっている芋をつんつんと枝でつつく。
「お、そろそろいいな」
「~!」
「本当か!? 焼き芋だ、焼き芋だ~!」
「こら、火のそばではしゃぐんじゃねーって! 危ないだろ!」
きゃっきゃ無邪気にはしゃぐこいつらを制しながら、オレは芋を2つ取りだす。
アルミホイルから芋を取りだすと、ほくほくとあたたかい熱を保っていた。
「うまそー! 食べたーい!」
「~~♪」
「へいへい。ちょっと待ってろよ」
パカっと芋を二つに折り、こいつらの小さな手に渡してやる。
「熱いから気を付けて食えよ」
「はーい!」
「♪♪」
オレから芋を受け取ると、2人は嬉しそうにもぐもぐと頬張り始めた。
「ったく、無邪気に食いやがって」
(本当は、1個まるまるオレのものになる予定だったのになぁ)
だけどまあ、とオレは顔を上げる。
(あいつら、喜んでるみたいだし。まぁ……いっか)
「謡、楽しそうだね」
自分でも気付かないうちに笑みを浮かべていると、気付けば隣にあいつがいた。
「べ、別に、楽しかねーよ。芋、1個とられちまったし」
「そんな事言って。謡、あの子達がはしゃいでるのを見て、笑ってたよ?」
「き、気のせいだろ、そんなの」
「謡ったら、意地っ張り」
くすくすと、楽しげな声をあげて微笑むこいつ。
何がそんなに面白いのかと、不思議に思ったオレは尋ねてみる。
すると、予想外の返答がきた。
「あの子達の相手をする謡、なんだかお父さんみたいで微笑ましいなって思ったの」
「……は?」
(お父さん??)
オレの頭の上に、いくつもの疑問符が浮かぶ。
数秒後、ようやく言われた意味を飲み込めたオレは、瞬時に体温が上がった。
「ば、バッカじゃねーの? あんな生意気な息子なんていらねーし!」
「でも、謡の子どもって、きっとあんな感じの元気な子だと思うわ」
「そ、そんな事あるわけねーだろ」
「どうしてそう言い切れるの?」
小首をかしげるこいつを、オレはじっと見つめる。
(こいつ、何も分かってねぇのか……?)
自分が、いかに大胆な事を言っているかという事に。
オレは盛大なため息を吐きだした後、じっと見つめた。
「オレは、オレに似た息子よりも、お前に似た娘が欲しいんだよ!」
「へ?」
キョトン、という言葉がぴったりあてはまる顔をするこいつ。
だけど、その顔はみるみる真っ赤に染まっていった。
「う、謡……!」
「……フンっ」
オレはぷいっとそっぽを向く。
きっと、オレの顔も、相当赤くなっているだろうから……。

その後、2人で焼き芋を分け合ったけれど、少しも味を感じなかった。

©honeybee

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