-
- [佐東]
- 「……ですから、西園寺君」
- [西園寺]
- 「……アァ?」
- [佐東]
- 「練習、来てもらえませんか?
せっかくあなたも吹奏楽部の一員になったのですから……」
- [西園寺]
- 「だから、オレは音楽なんかやらねーって……」
- [佐東]
- 「お願いします、西園寺君」
- [西園寺]
- 「……アンタみてーなひょろっちいヤツに
従うなんて、ゴメンだっての」
- [佐東]
- 「……ひょろっちい」
- [皇]
- 「こら、翔也。
八尋先輩を悪く言うなっての」
-
- 座ってからふと顔を上げると、
棚に並べられた楽器のケースが目に入ってきた。
- (こんな風に楽器庫の中を眺めるのなんて、初めて)
- [ハルコ]
- 「たくさんあるんですね、楽器」
- [佐東]
- 「ええ。
鴇和学園吹奏楽部は、設立されてから長いですからね」
- [佐東]
- 「そうそう、西園寺君が今使っているトランペット。
あれは、前任の部長が、
1年生の時に使っていたものなんですよ」
- [ハルコ]
- 「え? 本当ですか?」
- [佐東]
- 「はい。あそこのハープは、昨年OBの方々に寄贈して
いただいたもので、こっちの棚のオーボエは、一昨年の
副部長が使っていたもの。あれは全国大会で――」
- 佐東先輩は、楽器庫に保管された楽器ケースを指差しながら、
それぞれの楽器にまつわる部のエピソードを
簡単にお話してくれた。
-
- [皇]
- 「う~ん。国内初出店のフランスのパティスリーが販売する
記念ショコラをもらっても、
さすがに素っ裸はNGかなぁ……」
- (あの格好……! モデルは皇君なの!?)
- [美術部部長]
- 「そうですか……
アレを入手出来たのは
奇跡とも呼べる確率だったのですが……」
- [美術部部長]
- 「鴇和のアポロンの肉体には、
それに勝る価値がある……納得いたしました!!」
- [皇]
- 「はは……。
いくら男でも、そうそう学校の中で裸になるヤツは
いないと思うよ」
- [美術部部長]
- 「演劇部のダビデは、引き受けて下さいましたよ」
- [皇]
- 「演劇部の……ダビデ?」
-
- [ハルコ]
- 「西園寺君……?」
- [西園寺]
- 「……オレ……今まで、群れるヤツらってのは、
かっこ悪いもんだと思ってました」
- [西園寺]
- 「強いヤツは、1人で勝ち抜けばイイんだって」
- [西園寺]
- 「だから、1人じゃ曲が演奏できない吹奏楽も
かっこ悪いって馬鹿にしていたこともあって……」
- [西園寺]
- 「でも……
何人もの力が合わさると、
こんなにスゲェもんが出来るんすね……」
- [ハルコ]
- 「西園寺君……。
うん、そうだね……」
- [ハルコ]
- 「いくつもの音が重なり合って生み出された音楽って、
1人では決して作れないものだよね」
-
- ――まるで、歌劇の舞台から飛び出して来たような、
仮面の怪人が目の前に現れたのだった。
- [???]
- 「ああ、乙女よ……。
誘われるなら、どうぞ我がもとに」
- [???]
- 「わたくしの心は、すでに貴女の虜。
この穢れた指がただ一度だけ、
その柔らかな頬に触れることをお許し下さい」
- [???]
- 「貴女の澄んだ瞳から零れる清らかな涙を見るだけで、
わたくしの心は、今にも張り裂けそうなのです」
- [ハルコ]
- 「…………あ……」
- 漆黒のマントに隠されていた腕が伸ばされ、
長い指が頬に触れる。
- それは、とても優しくて……
仮面の下からのぞく2つの瞳は、温かい光に満ちていた。
-
- [写真部部長]
- 「そう! いいね!
それじゃあ、そのまま静止して!
撮りまーす!」
- 連続して、シャッター音が鳴り響く。
- [ハルコ]
- 「あ、あの……」
- [雛山]
- 「ごめんね。もう少しだけ、我慢して」
- 雛山先輩の声が、吐息を感じられる距離で、
はっきりと耳に届いていく。
- [ハルコ]
- 「せ、先輩……」
- [雛山]
- 「あと少し。もうちょっとの辛抱だよ」
- [写真部部長]
- 「いい感じだよ、2人とも!」
-
- 慌てて部室に駆けこんだ芦澤君は、
次の瞬間、ものすごい勢いで、
わたしの手からペンダントを奪い取った。
- [ハルコ]
- 「……え?」
- 何が起きたのか、わからなくて……
わたしは芦澤君を見つめたまま、
ぽかんとしてしまう。
- [芦澤]
- 「……見たの?」
- [ハルコ]
- 「え?」
- [芦澤]
- 「見たのかって、聞いたんだけど?」
- いつもの、芦澤君の声じゃない。
- 柔らかく優しげな印象なんて微塵もない、
低く、すごみのある声。
-
- すっかり怯えきってしまったわたしの手を、
春夏冬君が、握ってくれる。
- [春夏冬]
- 「……だ、だ、だ、大丈夫」
- [???]
- 「……ケテ……タスケ……テ」
- [???]
- 「タスケテタスケテタスケテタスケテタスケテェッ!」
- すると、
ぬうっと現れた、2つの白い影。
- [ハルコ]
- 「きゃあああっ!」
- [春夏冬]
- 「っ!」
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