優さんと篠宗さんの撮影が終わった後、私は2人と共に事務所へ戻ってきた。
優さんがそのまま練習スタジオへ向かうのを見送って、予約をとっていた会議室へ篠宗さんと入る。
それぞれ近くの椅子に腰掛けると、篠宗さんが先に口を開いた。
【篠宗】「忙しいのにすまないな」
【このは】「いえ、大丈夫ですよ。どうしたんですか?」
【篠宗】「その……」
言葉に迷っている様子の篠宗さん。
彼のこんなはっきりしない様子を見るのは、これが初めてな気がした。
(なんだか、すごく言いづらそう。もしかして……)
【篠宗】「俺のレコーディングの時、元気がないとお前が心配してくれていただろう」
【篠宗】「なのに俺はうまく答えてやれなくて、はぐらかしてしまって……すまなかった」
(やっぱり……)
予想していた通りの展開に、緊張感が走る。
私はそれを堪えるように、首を横に振った。
【このは】「謝らないでください、篠宗さん。
……こうして私を呼び出したって事は、話してくれる気になったという事なんですよね?」
【篠宗】「……ああ、まあ……そういう事だ」
【このは】「私、嬉しいです。
ずっと篠宗さんのことを知りたいと思っていたから」
【篠宗】「え……?」
【このは】「篠宗さんが何に悩んでいて、どうして元気がないのか……篠宗さんの気持ちを、ずっと知りたかったんです」
【このは】「そして、篠宗さんの力になりたかった……」
【篠宗】「霧下……」
【このは】「ですから、何でも話してください。
私はマネージャーとして、 篠宗さんの想いを全て受け止めてみせます!」
私が必死に言い募ると、篠宗さんの表情がほのかに和らぐ。
【篠宗】「……ありがとう」
口元に淡い笑みが浮かんだものの、それはすぐに消えてしまった。
【篠宗】「……昨日、依都が歌わないと言い出したのは、俺のせいなんだ」
【このは】「え……?」
(依都さんの様子がおかしくなったのは、篠宗さんのせい……?)
【このは】「それは……どういう事ですか?」
私の質問に対し、返事はすぐに返って来ない。
篠宗さんは深く息を吐くと、両手を握り合わせながら、机の一点を見つめる。
篠宗さんの思いつめた表情の理由を、私はその後の彼の話から、まざまざと思い知らされる事になった。