【篠宗】「俺は、色々あったが好きな事を仕事に出来て、好きな街で暮らしていけている……本当に運が良かった」

【篠宗】「まあ、こう思えるようになったのは、実はつい最近なんだけどな」

【このは】「素敵ですね。 私も好きな仕事に就いているし、この街に来て良かったとは思ってます」

【このは】「けど、まだ本当にこれで良かったのか不安になることはあります」

【篠宗】「そうだな……若いうちはただがむしゃらに走っているから、気付けないかもしれない。
 きっと落ち着いてきたら、幸せな人生だと思えるようになるさ」

【このは】「本当ですか? 早く、そう思えるようになりたいです」

【篠宗】「はは、焦るな焦るな」

【篠宗】「そういえば、このパレードを見た事がなかったという事は……霧下も、藍鉄出身じゃないのか?」

【このは】「はい、そうなんです」

頷いて、私はパレードに視線を戻した。

【このは】「私は、大学まで地元にいたんですけど……どうしても藍鉄で音楽に関わる仕事がしたかったんです」

【このは】「でも、うちは両親は猛反対で……藍鉄は危ないからって止められました。
 もう今の事務所に就職が決まってたのに」

【篠宗】「それは大変だっただろう」

【このは】「はい。揉めに揉めて……最終的には、賃貸契約を交わしちゃって両親に文句を言わせないようにしました」

【篠宗】「霧下は意外と強引だな」

【このは】「そうでもしないと、自分の好きな事が出来ない気がしたんです」

【このは】「でも、時々思うんです。 両親の反対を押し切って良かったのかなって……」

苦笑する私の頬に、篠宗さんの手が触れた。

(あ……)

わずかに撫でられ、くすぐったさに心臓がふわりと浮かぶ。

【篠宗】「そういう強引さは嫌いじゃないぞ」

【このは】「篠宗さん……」

【篠宗】「もちろん、自分のわがままばかり通すのはよくない。 けど、霧下のした事は夢への一歩だ」

【篠宗】「それにな……俺は、霧下がご両親の反対を押してこの街に来てくれて良かったと思ってる」

【このは】「え……」

【篠宗】「霧下が事務所に入ってくれたおかげで、KYOHSOのマネージャーになった」

【篠宗】「霧下がマネージャーになったから、 KYOHSOが……俺が変われた」

【篠宗】「俺は、霧下と会えて良かったと思ってるんだ」

(篠宗さん……)

【このは】「それは……私も同じです。 KYOHSOの皆さんと会えて、マネージャーになれて良かったです」

【篠宗】「そうか、良かった。 大変な事もあるだろうが、後悔はしないで欲しい」

【このは】「はい……!」

【篠宗】「いい返事だ」

(やっぱり……今夜の篠宗さんの笑顔、なんだか違って見える)

(いつもの、ハツラツとした笑顔じゃなくて。 すごく優しくて、見てると安心して、そして……)

片手を、そっと胸にあてる。

(……胸がドキドキして、苦しくなる)

(この感じ、今まで何度も味わってきたけど……)

(この気持ちって……)

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