【このは】「私は……」
【このは】「私は、依都さんの歌声が好きです」
【依都】「……」
【このは】「楽しそうに歌っている依都さんを見ていると私まで楽しくなって……嬉しくなるんです」
【このは】「依都さんは本当に楽しそうに歌うから……」
【このは】「その歌声が聞けなくなるのは……寂しいんです。ずっと聞いていたい歌声だから」
【このは】「激しい歌も、切ない歌も、優しい歌も、ちょっと……セクシーな歌も……」
【このは】「依都さんが歌う、歌がすごく好きなんです」
【このは】「あっ、も、もちろん、マネージャーとして行って欲しい気持ちはあります」
【このは】「でも、一番はその気持ちが大きいです。 それはきっと、時明さんも、優さんも、篠宗さんも同じです」
【このは】「みんな依都さんの歌が好きだから、大切だから……ここまで一緒にやって来たんだと思うんです」
【このは】「それを……今ここで無理をして失ってしまったらきっとみんなも悲しい思いをします」
【このは】「一番つらいのは依都さんだって分かっているんですけど……」
【このは】「ここまで依都さんのワガママを聞いてきた私のワガママを聞いては……もらえませんか……」
【このは】「……お願いしま……」
そう言い終える前に、私は依都さんの腕の中にいた。
【このは】「より……と……さん……」
肩越しに依都さんの小さな嗚咽が聞こえる。
【依都】「……っ」
か弱くて、頼りなくて、それでも……必死に強がって耐えようとしている声にならない声が聞こえる。
【このは】「依都さん、大丈夫ですよ。心配しなくても大丈夫です」
何かにすがりつくように強く私を抱きしめる依都さんの背中はかすかに震えていて、その震えが少しでもおさまるように優しく背中を撫でる。
【このは】「依都さんの声はすぐに戻ってきます」
【このは】「そうしたら、また前みたいに歌えますよ」
【このは】「本当は不安だったんですよね? でも、もう大丈夫です。強がらないでください」
【このは】「それに……寂しいです。 依都さんのいつもの軽口が聞けないのは」
【このは】「あんなにうるさかったから静かになると 寂しくなります」
【このは】「だから、早く良くなっていつもみたいにおしゃべりしてください」
コクンコクンと子どもみたいに頷いているのが分かる。
必死で泣くのを堪えているのは依都さんは不安におびえている子どもそのものだった。
【このは】「病院に行きましょう。 私も一緒に行きますから……」
しばらくの静寂の後……。
【依都】「……っかた」
依都さんの声が聞こえてきた。
【このは】「依都さん、ワガママを聞いてくれて……ありがとうございます」
ぎゅっと強く抱きしめられたから、私も少しだけ力をこめて抱きしめた。
大きな子どものような依都さん。
この人の力になりたいと、そう強く思った。