【仁菜】「わたしは、珠洲乃君と仲良くなりたいと思っています」
【仁菜】「だから、今日は……お近づきのしるしに、これを作って来ました!」
【千哉】「何ですか、これは?」
【仁菜】「これは……わたしの手作りのクッキーです!」
【千哉】「……!」
【仁菜】「芹君から聞きました。珠洲乃君は、甘いものに目がないって」
【千哉】「…………」
【仁菜】「あ、あと、珠洲乃君は犬も好きだって聞いたので……犬の形にしてみたんです」
【千哉】「……凝ってますね」
袋の中のクッキーを見て、ぽそりと珠洲乃君が呟く。
さっきまで呆れが浮かんでいた冷たい瞳が、少しだけ和らいだように感じる。
【仁菜】「わたしなりにこだわってみました。こっちがダックスで、こっちはパグです」
【千哉】「…………」
【仁菜】「これがチワワに、パピヨン。それから、これはプードルです」
【千哉】「……言われなくてもわかります」
ちらちら、と泳ぐ珠洲乃君の視線。
【仁菜】「本当ですか? ちゃんと犬の形に見えているのなら良かったです。気に入ってもらえましたか?」
【千哉】「だ、誰がそんな子どもみたいなものに騙されますか。こういうのは見かけ倒しで……」
【仁菜】「味もおいしいですよ。ちゃんと味見をして、母にもお墨付きをもらいました」
【千哉】「え……」
【仁菜】「料理とお菓子作りだけは、昔から花嫁修業の一環で母に鍛えられてきたので、得意なんです」
【仁菜】「珠洲乃君と友達になれたら、はりきっていくらでも作ってきます!」
【千哉】「あ、あなた……料理『だけは』って、胸を張って言えることですか」
【仁菜】「そ、それは……本当のことなので……」
【千哉】「……だから。あなたはどうして……」
【千哉】「…………ああもう。これじゃ僕がバカみたいだ」
はあ……と、今までで一番大きなため息をついて、珠洲乃君はこめかみを抑えた。
そして……。
【千哉】「……あなたのことなんて興味ないです。それでも良かったら、相手してあげてもいいですよ」
渋々ながらもゆるやかな声で、そう言ってくれた。