ふと、土手で眠りこけている人物が目に入った。
その傍らには、さっきの猫さんがすり寄っている。
(あれは……)
【朔良】「…………」
【仁菜】「檜山さん……?」
檜山さんは、擦り寄ってきた猫さんを撫でながら、何か呟いているようだった。
とても小さな声……それが聴きたくて、耳を澄ます。
(……歌、だ)
本当に小さな声だったけど、檜山さんの歌声は艷やかで、とてもしなやかだった。
それに歌詞のひとつに感情が乗っていて、こちらの胸に直接響いてくる。
わたしは檜山さんの歌声という雪に、深く沈められていく錯覚を覚えた。
聴いているだけで、胸が締めつけられる。
ライブや、練習の時に聴いた歌声とは違う。
細い声の中に、仄かな熱を感じる。
そこには確かに、檜山さんの、歌を愛する感情が詰まっている気がした。
鼻の奥がツンとして、心が震える……。