【理緒】「ん……?」

ふっと目が覚めると、まだ辺りは暗い。

(今、何時だろう?)

ベッドサイドテーブルの目覚まし時計を確認するとまだ夜明け前の時刻だった。

(まだ眠れるな……。あっ……)

亜貴ちゃんの寝顔を確認しようと、身を乗り出した。

(亜貴ちゃん、ちゃんと寝てるかな?)

【亜貴】「う、ん……んんっ……」

(亜貴ちゃん、苦しそう……もしかして、今でもまだ、悪い夢見るのかな?)

亜貴ちゃんは昔から、夢見が悪い。

それがおじさんとおばさんのケンカが原因なのか、それとも別の理由があるのかは分からない。

でも時々、こうして辛そうに顔を歪めていた。
それは、幼い頃からずっと。

そういう亜貴ちゃんを見つけた時は、私と玲音が必ず手を繋いであげていた。

すると亜貴ちゃんは安心するみたいで、自然と穏やかな顔になっていた。

(今もそうだといいんだけど)

手を伸ばし、そっと亜貴ちゃんの手を握る。

【亜貴】「っ……ん……」

ピクリと眉が動いたけど、起きる気配はない。

(少しは落ち着いた? でも、まだちょっと苦しそうな顔してるかも)

(頭を撫でてあげればいいんだけど、そうしたら亜貴ちゃん、絶対に起きちゃいそうだな)

(あ! そうだ)

いい事を思いついて、亜貴ちゃんの手を繋いだまま、軽く息を吸った。

そして……さっき亜貴ちゃんが歌った子守唄を、今度は私が邪魔しない声音で歌い出す。

これは亜貴ちゃんが大好きな子守唄。

【亜貴】「…………」

(良かった、穏やかな顔になった)

ホッと胸を撫で下ろし、手は繋いだまま目を閉じる。

亜貴ちゃんが、これ以上悪夢を見なくてもいいよう祈りながら。

テキストを消す