【久遠】「亜貴、理緒! おはよーさん」

【亜貴】「おはよう、久遠」

【理緒】「久遠先輩、おはようございます」

久遠先輩を、近くにいた女の子が頬を染めながらチラチラと久遠先輩を見つめている。

(久遠先輩、相変わらず人気者だな)

亜貴ちゃんと久遠先輩は、女の子に人気がある。

誰にでも優しい亜貴ちゃんは、正統派な王子様タイプで、女の子からよく告白をされている。

でも亜貴ちゃんは、どんなに告白されてもOKせず、何故か恋人を作ろうとしない。

それが女子生徒達いわく『アイドルみたいで良い』と、より一層みんなの王子様として扱われていた。

久遠先輩はその逆で、恋人がいない期間の方が短い。
よく言えば、誰とでも仲良くなれるタイプ。

チャラいと言われる事もあって、亜貴ちゃんとは真逆のタイプだけど、彼も王子様と呼ばれている。

そんな2人が並べば、自然と注目を浴びる事になる。

【亜貴】「久遠、ネクタイ曲がってるよ」

そう言って亜貴ちゃんは、久遠先輩のネクタイに手を伸ばす。

【久遠】「ん? ああ、悪いな」

遠くから女の子達の黄色い声が上がる。
それと同時に、私の耳には女の子達の言葉が聞こえてくる。

【女子生徒1】「久遠君と亜貴君の隣にいる女、誰?」

【女子生徒2】「2人と違って地味で冴えなくて……、
なんで一緒にいるのって感じだよね。似合わないし」

華やかな2人と一緒に登校しているので、少なからず私も噂されてしまう。

私の外見は、亜貴ちゃんや久遠先輩と違って地味だ。
立っているだけで絵になる2人のそばに、そんな私がいるのは似合わない。
それが彼女達の言い分だ。

【久遠】「……理緒、どうした?」

【理緒】「えっ、あ……2人とも今日もモテてるなって思っていました」

【亜貴】「2人……? モテてるのは久遠だけだよ」

【久遠】「いや、お前だって充分モテてんだろ。自覚しろよ」

キョトンと首を傾げる亜貴ちゃんを久遠先輩が小突くけど、
亜貴ちゃんは首を傾げたままだった。

【理緒】「そうだよ。亜貴ちゃんだってモテモテなんだから」

私の言葉に久遠先輩が首を上下に振って同意してくれる。

【亜貴】「でも、僕達より理緒ちゃんの方がモテそうだけどね」

【理緒】「そ、そんな事ないよ……」

【久遠】「そうか? 理緒は素材は悪くないんだから、オシャレすれば、もっと可愛くなってモテると思うぞ」

【理緒】「く、久遠先輩……」

【亜貴】「うん、そうだよ。それに理緒ちゃんはすごく優しいし」

(亜貴ちゃんも久遠先輩も私を気遣ってくれてるんだ。優しいな)

【理緒】「2人とも、ありがとう。褒められると嬉しいけど、少し恥ずかしいよ」

私を見つめる2人の視線は、本当の兄のように優しい。

2人への告白のために、橋渡ししてほしい……そう頼まれるのはまだ良い方。

靴を隠されたり、ノートに落書きされたり……
そんな些細な嫌がらせは昔からずっとあった事だから、
いつの間にか慣れてしまった。

でも、それもこれも中学2年生の頃に比べたらまだ良い方で、
ここに玲音がいた時は、もっと酷かった。
それこそ、見えないところに傷がつくような事も……。

【亜貴】「今日から高校3年生か……。 久遠と同じクラスになれるかな?」

【久遠】「ははっ、どうだろうな? 同じクラスだといいな」

【亜貴】「うん。理緒ちゃんも玲音と同じクラスになれるといいね。
そうしたらきっと話せるようになるよ」

【理緒】「そうだね」

(玲音と同じクラス、か……)

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