【つむぎ】「……なんか変な感じ」
【理緒】「ん? 何が?」
【つむぎ】「こうして女といるのに、何もしないなんて」
【理緒】「えっ?」
【つむぎ】「女って一緒にいると、構えとか、甘えさせろとか言うじゃん」
【理緒】「そうなの? ごめん、経験ないからあんまり分からない」
【つむぎ】「知ってる。大体そうなんだよ。こっちが疲れててもお構いなし。あれして、これしてってさ」
【つむぎ】「んで、疲れてるから無視すると、泣き出したり、怒り出したりしてさ……」
【つむぎ】「めんどくせえなって思うから、用が終わったらすぐ帰ってもらってたんだ」
(用って、何の事だろう……。何となく深く聞かない方がいい気がする)
【理緒】「そうなんだね。それで、何が不思議なの?」
【つむぎ】「理緒といるとそうならないからさ。なんか、居心地が良いっつーか」
【理緒】「うーん、よく分からないけど、それは私とつむぎ君が付き合ってないからじゃないかな?」
【つむぎ】「……かもな。でも理緒といる時の空気、嫌いじゃないぜ」
【理緒】「私も……つむぎ君とこうして一緒にいるの、最初は緊張してたけど……」
【理緒】「今は居心地が良いって思ってるよ」
【つむぎ】「あっそ」
つむぎ君は、小さく笑って、またベースを弾きだした。
【つむぎ】「理緒……」
【理緒】「何?」
【つむぎ】「……何かおしゃべりして。理緒と話したい」
【理緒】「……おしゃべりか」
(何をしゃべったらいいのかな?)
じっと見られているのが居心地悪いらしく、練習中は雑談をするのが私の役目でもあった。
でも、そのうちつむぎ君の方がおしゃべりになっちゃう事も……。
【理緒】「そういえばたくと君が『パパのベース』って言ってたけど、どういう意味なの?」
【つむぎ】「あー……そういえば、そんな事言ってたっけ」
【理緒】「うん。ずっと気になってたんだよね」
【つむぎ】「このベース、俺の兄貴のなんだ」
【理緒】「じゃあお兄さんもベーシストなの?」
【つむぎ】「正確には、だった……かな」