【梓】「先輩なら、分かってくれますよね」
【主人公】「それは……もちろん、分かってる」
【主人公】「ただ、一緒にいれたらいいなって思っただけだよ」
【梓】「僕だって、先輩と一緒にいたいですけど、こればっかりは仕方ないですから」
【主人公】「そうじゃないよ。そうじゃなくて……」
唇をキュッと噛みしめて、梓君を見つめる。
【梓】「……先輩?」
【主人公】「梓君の進路の事、私、初めて聞いたから少し、気持ちの整理が出来ないんだ」
【梓】「…………」
【主人公】「梓君はどう思ってるか分からないけど、私は、そんなに大事な事……もっと早くに教えて欲しかったなって思う」
【梓】「……すみませんでした。進学は、自分だけの問題だと思ってたんです」
その言葉に、目の前が真っ白になった。
【主人公】「そ、そっか。そう、だよね」
【主人公】「ごめんね、私……そうだよね。梓君の問題だよね」
笑う、つもりだった。
でも、ほっぺたを伝ったのは生ぬるい雫。
【梓】「先輩、泣かないでください。僕、何か悪い事しました?」
【主人公】「してない、してないよ。でも……ごめん」
必死に抑えようとすればするけど、一度決壊した堤防は、止められない。
【主人公】「今日は、もう一緒にいないでおくね。ごめん……ごめんなさい」
スン、と鼻を鳴らし、私は立ち上がって背を向けた。
【梓】「先輩!」
梓君はすごい勢いで走ってくると、背中から私を抱きしめた。
【主人公】「あ、梓君。ダメ……っ」
【梓】「今、先輩を1人になんて出来ません」
【主人公】「でも……今はダメだよ」
【梓】「どうしてですか?」
【主人公】「今は……梓君と一緒にいられない……」
わがままを言って、引き止めたくなる。
声を殺して震えている私の身体を梓君が、そっと振り向かせる。
【梓】「じゃあ、せめてその涙を拭わせてください」
梓君はそっと目を閉じると、唇で目尻に触れた。
キスで涙を拭ってくれる梓君。
その感触は、いつもと同じ。
梓君は何度か目尻にキスをして最後に、唇へと触れた。
それはほんの一瞬。
微かに触れるだけのキス。
【主人公】「梓、君……」
【梓】「……気をつけて、帰ってください」
【主人公】「……ごめんね」
梓君の手をすり抜けて、屋上を去る。
その目に映った最後の彼は、とても寂しそうな目をしていた。