未公開イベント『Halloween Nightmare Party 後編』
フライヤー配りの翌日、VIVIANITE INCLUSIONにて――。
【ハルヨシ先輩】
「いや~、昨日はすごい騒ぎだったな~」
【香椎亜貴】
「すみません、僕のせいで……」
【エリ先輩】
「そんな……気にしないでくださいね。それに、フライヤーは全部さばけましたし!」
【香椎亜貴】
「……ありがとうございます。そう言ってもらえると救われます」
【ハルヨシ先輩】
「NaLさんや檜山さんも手伝ってくれたおかげでいい宣伝効果になったよな!」
【エリ先輩】
「当日がますます楽しみになったわよね~!ロビーの飾りつけも進んでるし……あれ?」
【香椎亜貴】
「……ん?どうしたんですか?」
【エリ先輩】
「ちょっとここの飾りの形が気になっちゃって。直せるかな~……」
【香椎亜貴】
「ああ……確かに、ちょっと形がガタガタに見えるかもしれないですね」
【香椎亜貴】
「ちょっと待ってくださいね。こういうときはこうやって……」
【ハルヨシ先輩】
「……おお~!」
【香椎亜貴】
「即席ですけど、これなら形も整って見えるんじゃないですか?」
【エリ先輩】
「いいと思います!」
【ハルヨシ先輩】
「ナイトって手先が器用なんだな~。絵はあんな感じだったのに――」
【エリ先輩】
「ちょっと!」
【ハルヨシ先輩】
「いってえ!?なにすんだよ!?いきなり蹴るな!!」
【エリ先輩】
「あんたが余計なこと言うからよ」
【香椎亜貴】
「あはは……」
【音石夕星】
「I’m back~♥」
【香椎亜貴】
「あ!夕星さん!」
【香椎亜貴】
「って、その手にしてるオブジェは……!?」
【ハルヨシ先輩】
「この間ナイトが描いたジャック・オ・ランタン……!?」
【音石夕星】
「いいでしょ~。あーちゃんの描いたホラーランタン、実際に作ってもらっちゃった♥」
【音石夕星】
「ステージの一番目立つところに飾るんだぁ~♪」
【ハルヨシ先輩】
「いやいやいやいや!!それはマズイですって!!」
【音石夕星】
「どこが一番目立つかなぁ~」
【ハルヨシ先輩】
「って、聞いてねぇし!」
【ハルヨシ先輩】
「ちょっと待ってください、Toiさん~!」
【エリ先輩】
「もう、Toiさんってば……」
【香椎亜貴】
「あはは……さすが夕星さんって感じですね」
【エリ先輩】
「ナイトさんも、いつも絡まれていて大変じゃないですか?」
【香椎亜貴】
「……そうですね、でも、僕は夕星さんの優しいところを知ってるんです」
【エリ先輩】
「優しいところ?」
【香椎亜貴】
「はい。この間だって……」
+++
【香椎亜貴】
ジンさんに、最初にハロウィンの話を持ちかけられた日のことでした……。
【ファン】
「ナイト~!一緒に写真撮ってぇ~!」
【香椎亜貴】
あの時、僕は熱狂的なファンの子達に囲まれていたんです。
【香椎亜貴】
写真なんて困るからって、一生懸命断ってたんだけど、全然聞いてもらえなくて……。
【香椎亜貴】
だけど、そんな時……
【音石夕星】
「Hey, girl!そこで何してるのぉ~?楽しそうだねぇ」
【ファン】
「えっ!?アッポリのToi……!?」
【音石夕星】
「写真なら僕と撮ろ?はい、スマホ貸して♥笑って笑って~」
【ファン】
「あ、あ、あの……!」
【音石夕星】
「はい、綺麗に撮れたよ。僕とじゃ不満だった?」
【ファン】
「い、いえっ!!Toiと写真撮れただけでも十分ラッキーですぅ~!ありがとうございました!!」
【音石夕星】
「は~い、バイバーイ」
【香椎亜貴】
そんな風に、困ってた僕を夕星さんが助けてくれたんです。
【香椎亜貴】
その後、今度は夕星さんに絡まれてたところにジンさんが来て、インクルに連れて来られました。
+++
【香椎亜貴】
「昨日のフライヤー配りでも同じように助けられちゃいました。夕星さんは、なんでもないような顔でしたけど」
【香椎亜貴】
「器用で、そつがなくて……。いつもいつもそんな夕星さんが、僕は……」
【香椎亜貴】
「――正直、ちょっと苦手だった」
【香椎亜貴】
「向かい合うと、心の奥底に隠しているものまで全部、見透かされてしまいそうな感じがして……」
【香椎亜貴】
「僕の全てを暴かれてしまいそうな気持ちに襲われて……怖くて……」
【香椎亜貴】
「……あ」
【香椎亜貴】
「ご、ごめんなさい!僕、何言ってるんだろう。今のは聞かなかったことにしてもらえますか……?」
【エリ先輩】
「も、もちろんです!それに、私もToiさんのこと少し誤解していたかもしれません。ありがとうございました!」
【香椎亜貴】
「いえ、こちらこそ!僕は夕星さんが悪い人じゃないって伝えたかっただけで……」
【エリ先輩】
「そうですよね。ちょっと個性が強い人ですけど、Toiさんのそういうところもアッポリの魅力のひとつなんだろうなって思います」
【香椎亜貴】
「僕もそう思います」
【エリ先輩】
「あ!戻ってきたみたいですよ!」
【音石夕星】
「やっぱりこっちに飾るぅ~♥」
【ハルヨシ先輩】
「だからダメだって!!」
【音石夕星】
「え~!ケチー!!」
【音石夕星】
「ねえねえ、あーちゃんもこっちに飾った方がみんなに見てもらえて嬉しいよね~?」
【香椎亜貴】
「えぇぇっ!?は、恥ずかしいのでやめてください~~っ!!」
***
それからも、ハロウィンライブの準備は続き――。
【音石夕星】
「この装飾取っちゃお~っと。こっちのがかわいい~♥」
【ハルヨシ先輩】
「それは取っちゃダメですって~!!」
【エリ先輩】
「はい!今の台詞、もう一度お願いします!」
【香椎亜貴】
「え、ええと……ほ、ほほ本日はハロウィンライブにお越しいひゃらき……っ」
【音石夕星】
「MCがそんなに噛み噛みじゃダメだよぉ、あーちゃん?」
【香椎亜貴】
「うぅ……頑張ります」
***
【ジン】
「よし、それじゃあ当日の打ち合わせを行うぞ!」
【香椎亜貴】
「はい!よろしくお願いします」
【音石夕星】
「はー、今から?だるぅ~い」
数々の課題を乗り越え、そして――。
***
【ジン】
「乾杯!」
【音石夕星】
「カンパ~イ!」
【ハルヨシ先輩】
「いやぁ~、ついに明日がライブ当日ですね!」
【ジン】
「ここまで長かったな。けど、終わった気になるなよ?」
【ジン】
「今日はあくまで、明日の本番に向けて気合を入れるための前夜祭なんだからな!」
【ジン】
「というわけで……お前ら、今夜は景気づけに飲みまくれー!」
【ハルヨシ先輩】
「イェーイ!飲むぞ~!」
【エリ先輩】
「いやいや、本番前日ですよ!?ほどほどにしてくださいねーっ!?」
***
【香椎亜貴】
「『本日は、ハロウィンライブにお越しいただき』……」
【香椎亜貴】
「……ふぅ。大丈夫かな、明日……」
【香椎亜貴】
「MC中に噛んじゃわないように、少しでも台本を読みなれておかないと……」
【音石夕星】
「あーちゃん、見ーっけ♥」
【香椎亜貴】
「あ、夕星さん」
【音石夕星】
「その台本……お酒飲んでないと思ったらもしかして、MCの練習してたの?」
【香椎亜貴】
「はい、まあ……」
【音石夕星】
「そっか~、大変だねぇ。あーちゃん、そうやってた~っくさん練習してるクセに、未だに台詞噛み噛みだもんねぇ」
【香椎亜貴】
「うぅ……その通りですけど……」
【音石夕星】
「そうだ。あーちゃんがペラペラになる魔法のお酒作ってあげる」
【香椎亜貴】
「えっ?ちょ、ちょっと待ってください。僕、お酒はあんまり……!」
【音石夕星】
「はい、どーぞ♥ウーロンハイだよぉ」
【ジン】
「おっ!なんだ亜貴、お前も飲むか!こっち来い!俺らと飲むぞ!」
【香椎亜貴】
「えっ、あっ、いや、僕は……!」
【音石夕星】
「あーちゃん、このお酒持って行ってね~♥」
【香椎亜貴】
「ええ!?こんなにたくさん飲めないです~~~!」
【音石夕星】
「バイバ~イ♪べろべろにならないようにねぇ~」
【ハルヨシ先輩】
「あれ?ジンさん知りませんか?」
【音石夕星】
「あそこだよ。あーちゃんと一緒にいる」
【ハルヨシ先輩】
「あ!ほんとだ……って、ナイトが持ってるのって酒?確か弱いって言ってたような……」
【音石夕星】
「大丈夫だよ。あれ、ウーロンハイじゃなくてただの薄めたウーロン茶だから」
【ハルヨシ先輩】
「え、そうなんですか?」
【音石夕星】
「こういう時、飲んでなきゃノリ悪いって扱いになるの、日本人のおかしなトコだよねぇ」
【音石夕星】
「飲めないヤツに無理させることないと思うんだけどさ~」
【ハルヨシ先輩】
「……優しいっすね、Toiさん」
【音石夕星】
「は?やめてよ。『優しい』なんて言うの」
【音石夕星】
「いい?僕はね――」
【音石夕星】
「あーちゃんが嫌いなんだよ。初めて会った時から、ずっとね」
【ハルヨシ先輩】
「ええ!?」
【音石夕星】
「あはは、びっくりした?」
【ハルヨシ先輩】
「しましたよ!でも……なんか理由でもあるんですか?」
【音石夕星】
「別に……特に何かハッキリした理由とか原因があるってわけじゃないよ」
【音石夕星】
「ただ、存在そのものが嫌いっていうか……この感じ、分かんないかなぁ?」
【ハルヨシ先輩】
「えー……」
【音石夕星】
「……亜貴って、いくら表情でニコニコ笑ってても、心ではいっつもウジウジしてるんだよね」
【音石夕星】
「ああいうの見てると……イライラして、いじめたくなるんだ」
【音石夕星】
「けど、亜貴は僕がどんなにひどいことをしても、抵抗しないで、されるがままに何でも受け入れるだけ」
【音石夕星】
「で、またウジウジウジウジ……。そういうところがまた、ホンット嫌い」
【音石夕星】
「今回のお手伝いを引き受けたのだって、そんなあーちゃんをいじめ倒して遊びたかっただけ」
【音石夕星】
「遊んで遊んで、いじめ倒して……ボロボロにしてあげたかったんだよねぇ」
【音石夕星】
「けどアイツ、最近なーんか成長しちゃったみたいでさ。僕のしたことにちゃんと怒ったり、抵抗したりしてくるの」
【音石夕星】
「今のあーちゃんには、ちゃんと“意思”があるっていうか……いじめがいがなくてつまんない」
【ハルヨシ先輩】
「つまんないっつーか……ちょっと、寂しそうにも見えますけど」
【音石夕星】
「……はぁ?なに言っちゃってんの?僕が寂しそうって、おかしいでしょ。酔ってんの?」
【音石夕星】
「そういう変なこと言うヤツには、キッツイお酒作って潰してあげよっか」
【ハルヨシ先輩】
「い、いや!!遠慮しときます!!」
【音石夕星】
「あははははは!そんな慌てなくてもいいのに」
【音石夕星】
「大丈夫だよ。誰でもいじめるわけじゃない」
【音石夕星】
「……誰でも良いわけじゃないからね」
***
そして、ハロウィンライブの当日――。
【エリ先輩】
「当日分のチケットは完売ですー!」
【ハルヨシ先輩】
「マナーを守ってライブを楽しんでいってくださーい!」
***
【ジン】
「――ってわけで、おかげさまでものすごい大盛況だ!」
【音石夕星】
「今日まで頑張ったもんねぇ~♥」
【香椎亜貴】
「たくさんお客さんが来てくれて嬉しいです。けど……」
【香椎亜貴】
「だ、大丈夫かな……。MC、ちゃんと噛まずに最後まで出来るかな……」
【音石夕星】
「…………」
【ジン】
「どっちにしろもう本番だ。さくっと準備に入れ!」
【香椎亜貴】
「は、はい!」
【香椎亜貴】
「じゃあ、夕星さん!準備をしに――うわっ!?」
【香椎亜貴】
「いっ……たぁ……」
【音石夕星】
「うわぁ~。そんな何もないとこで転ぶなんて、あーちゃん大丈夫?」
【香椎亜貴】
「うぅ……す、すみませ――」
【音石夕星】
「ほら、掴まりな」
【香椎亜貴】
「夕星さん……」
【音石夕星】
「何してんの?僕の手に掴まれって言ってんの」
【香椎亜貴】
「は、はい!ありがとうございます」
【香椎亜貴】
「……あの?夕星さん、いつまで手を握ってるんですか?」
【音石夕星】
(亜貴、手が冷たい……やっぱ相当緊張してるんだね)
【音石夕星】
「ん~。僕の気持ちが伝わるまで、かなぁ?」
【香椎亜貴】
「え……?」
【音石夕星】
「あのさ……」
【音石夕星】
「そんなに不安がらなくても大丈夫でしょ。亜貴ならなんだって出来るよ。今の亜貴ならね」
【香椎亜貴】
「……っ!?」
【音石夕星】
「ほら、準備しよ?時間なくなる」
【香椎亜貴】
「あっ、ま、待ってくださいっ!」
【香椎亜貴】
(今のってまさか……夕星さん、僕のことを励ましてくれたのかな?)
【香椎亜貴】
(あの夕星さんが……信じられない。……でも)
【香椎亜貴】
(……頑張ろう。今の僕ならなんだって出来るって、そう信じて……!)
***
【音石夕星】
「トリック・オア・トリート♪インクル・ナイトメアパーティー始まるよ~♥」
【香椎亜貴】
「このパーティーでは、将来有望な新人バンドマン達が数多く出演し――」
***
【香椎亜貴】
「――まずはこのバンドからご紹介します!どうぞ!」
***
【香椎亜貴】
「ふぅ……。と、とりあえず無事に進んでますね……」
【音石夕星】
「あーちゃん、ステージの上で緊張しすぎでしょ~。自分のライブの時でもまだそうなるの?」
【香椎亜貴】
「それは――」
【香椎玲音】
「亜貴!ゆーせー!応援に来たぜ!」
【香椎亜貴】
「玲音!」
【天城成海】
「俺達もいるよ、亜貴にぃ!」
【香椎亜貴】
「成海ちゃん……!」
【音石夕星】
「げぇ、有紀に忍までいんじゃん」
【青井有紀】
「うちの狂犬の様子が心配でさ。成海の付き添いも兼ねて来たんだよ」
【黒沢忍】
「……と言いつつ、出演する新人バンドの演奏はしっかり見ていたがな」
【青井有紀】
「当然だろ?若くてもセンスのいい奴はたくさんいるからな」
【天城成海】
「亜貴にぃのMC、かっこよかったよ!けど、夕星が何を言い出すかハラハラしちゃったなあ」
【音石夕星】
「え~、普通のことしか言わないよぉ?僕ってイイコだから――」
【ハルヨシ先輩】
「Toiさん!ナイト!大変なんです!」
【香椎亜貴】
「え?そんなに急いで、何かあったんですか?」
【音石夕星】
「なになに~?」
【ハルヨシ先輩】
「いいから早く!!」
【音石夕星】
「は?ちょ、何?なんで腕引っ張るの~!?」
【香椎亜貴】
「わわっ、僕まで……!?」
***
【香椎亜貴】
「――え?今日出演予定のバンドマンが……?」
【バンドマン1】
「うぅ……」
【音石夕星】
「ん~?なんでその人寝転がってんの?これから出番でしょ?」
【香椎亜貴】
「まさか、急病……!?」
【ハルヨシ先輩】
「……実は、インクルほどおっきなキャパのステージが初めてで、緊張しすぎたみたいです」
【香椎亜貴】
「だから動けなくなっちゃったんだね……」
【音石夕星】
「何それ。拍子抜けなんだけど」
【音石夕星】
「ねぇ、そこのあんた。この程度の箱で緊張してるようじゃ、どうしようもないでしょ。今日のライブは辞退しな」
【バンドマン1】
「そ……そういうわけには……!俺達にとって、今回のライブはチャンスなんです……!」
【音石夕星】
「そのチャンスを潰してんのは自分でしょ?」
【バンドマン1】
「っ……」
【香椎亜貴】
「…………」
【音石夕星】
「あーちゃん?」
【香椎亜貴】
「……あの……」
【香椎亜貴】
「緊張で怖くなる気持ち……よく分かります。僕も今まで、何度も苦しめられてきたから」
【香椎亜貴】
「その度に、弱い自分が憎かったです。いつもいつも、メンバーに迷惑をかけてしまって……」
【香椎亜貴】
「でも、大丈夫。ステージは敵じゃない。メンバーもお客さんも、みんなあなたの味方です」
【香椎亜貴】
「今日まで頑張って練習してきたんですよね?きっと大丈夫です」
【バンドマン1】
「ナイト……さん……」
【音石夕星】
「……ふーん?」
【バンドマン1】
「……そう、ですよね。みんな……敵じゃない……」
【バンドマン2】
「……やれそうか?」
【バンドマン1】
「ああ……。もう大丈夫だ。ごめんな……」
【香椎亜貴】
「良かった。頑張ってくださいね」
【音石夕星】
「そろそろ準備しないと間に合わないんじゃない?早く行ってきなよ」
【バンドマン達】
「はい!」
***
【バンドマン1】
「今夜は俺達の初めての大舞台です!全力で挑むので、聴いていってください!」
【バンドマン2】
「行くぞインクルー!!」
***
【香椎亜貴】
「良かった……。さっきの人達、無事にパフォーマンス出来てますね」
【音石夕星】
「そうだね」
【香椎亜貴】
「…………」
【香椎亜貴】
(こんなキャパの箱でやるのは初めてだって言ってたっけ。だからかな、緊張が伝わってくるし、ミスしてるところもある)
【香椎亜貴】
(だけど……みんな、すごく一生懸命だ。お互いを信じあって、不安な気持ちを拭い去って……)
【香椎亜貴】
(……昔の僕と同じ)
【香椎亜貴】
(今でも忘れられない、あれはピアノの発表会の時――)
【香椎亜貴】
(ふとした瞬間に、頭が真っ白になって、演奏が完全に止まってしまった)
【香椎亜貴】
(指が動かなくなって、漂う静寂に恐怖で吐き気を覚えて……)
【香椎亜貴】
(その失敗以降、僕は、人の注目を浴びる場所が怖くなってしまった)
【香椎亜貴】
(そんな僕が、まさかバンドマンなんていうステージに立ち続ける存在になるなんて)
【香椎亜貴】
(あの頃の自分には、想像も出来なかったな……)
【香椎亜貴】
(でも、一緒にステージに立ってくれるレヴァフェのみんなのおかげで、僕は成長することが出来た)
【香椎亜貴】
(人生って、こんな風に予想外のことばっかり起きるんだ)
【香椎亜貴】
(だから……彼にも、頑張って欲しいな。弱い自分になんて負けないように、仲間を信じて――)
【音石夕星】
「…………」
【音石夕星】
「……あ。ステージ、終わったよ」
【香椎亜貴】
「ですね……。はぁ……良かったぁ……」
【音石夕星】
「なんであーちゃんがそんなに緊張してるんだか」
【香椎亜貴】
「あはは……確かにそうですね。彼らの緊張がうつっちゃったみたいです」
【音石夕星】
「ふーん……」
【音石夕星】
「……あーちゃんって、ホント変わったね。僕と出会った頃は、誰にでも優しい顔しながら身内以外興味ないって感じでさ~」
【音石夕星】
「いつも自分の心の……なんて言うか、箱庭に閉じこもりっぱなしに見えたよ」
【香椎亜貴】
「え……」
【音石夕星】
「僕としては、それがつまんなかったんだけど……」
【音石夕星】
「でも、今のあーちゃんは、また違ういじめ方が出来そう♥」
【香椎亜貴】
「うぅ……それは勘弁してください……」
【香椎亜貴】
「……それにしても、僕って、そんなに変わりましたか?」
【音石夕星】
「まあね。……レヴァフェっていう居場所が、あーちゃんを強くしてくれたんじゃない?」
【音石夕星】
「僕にとってのあいつらみたいに……」
【香椎亜貴】
「え……」
【音石夕星】
「Just kidding.」
【音石夕星】
「ほら、行くよ亜貴」
【香椎亜貴】
「あ……は、はい!」
***
【音石夕星】
「そろそろインクル・ナイトメアパーティーも終わりだね~」
【香椎亜貴】
「ここまであっという間でしたね。だけどもうお別れの時間――」
【???】
「ちょっと待ったああああ!こんなところで終わらせないぜ!」
【香椎亜貴】
「こ、この声……!れお……じゃなくて、キング!?」
【香椎玲音】
「大正解!!せっかくのハロウィンだ。このまま終わりなんて寂しいだろ?」
【百瀬つむぎ】
「むしろこっからだから」
【香椎亜貴】
「みんな……!」
【月野原久遠】
「ぼーっとすんな!お前も来るんだよ、ナイト!」
【香椎亜貴】
「……うんっ!」
【観客】
「きゃー!レヴァフェが勢揃いしてる!!」
【観客】
「もしかして、レヴァフェのステージが見れるの!?」
【観客】
「やばい!ドキドキしてきた!」
【香椎玲音】
「よう、お前ら!サプライズゲスト、レーヴ パッフェの登場だ!」
【香椎玲音】
「オレ達が、インクル・ナイトメアパーティーをもっともっと盛り上げてやる!最後までついてこいよ!」
***
【音石夕星】
(楽しそうにドラム叩けてるね――亜貴)
【音石夕星】
(今の亜貴ならなんだってできるって言ったのは僕だけど、生意気に成長して、ちょっとだけ……焦らされる)
【音石夕星】
(……ん?焦る?僕が?)
【音石夕星】
(そんなわけないでしょ。こんなの、一時的なものに過ぎない)
【音石夕星】
「……僕が亜貴に揺さぶられるなんて、そんなことあるわけないじゃん」
【青井有紀】
「――亜貴くんがどうしたって?」
【音石夕星】
「うげ~……」
【青井有紀】
「ははっ、いつも通りの反応ありがとうな~」
【黒沢忍】
「何か考え事でもしていたのか?」
【音石夕星】
「……別に、僕も早くドラム叩きたいなぁって思ってただけ」
【天城成海】
「俺も!新人バンドのみんなや、ライバルのレヴァフェのパフォーマンスを見ていたら」
【天城成海】
「早くステージに立ちたくてじっとしていられなくなっちゃうよね!」
【天城成海】
「あの熱気の中で、思いっきり歌って思いっきり楽しみたい。誰よりも」
【音石夕星】
「ははっ、なるなるらしいねぇ」
【音石夕星】
「トーゼンでしょ。どんなステージでも僕達のスタンスは変わらない。apは――」
【成海・有紀・忍】
「サイコー以外、ありえない」
【音石夕星】
「No doubt♥」
【天城成海】
「う~~~~~!うずうずする!出番まだかなぁ~」
【青井有紀】
「あれ、そういえばたつおはどこ行ったんだ?」
【黒沢忍】
「確かに見かけないな……まぁ、ステージに出ればわかるだろう」
【天城成海】
「ふふっ、きっとまた観客に交じって楽しんでるんじゃないかな?」
【音石夕星】
「ほーんと懲りないよねぇ。僕がこんなに忙しくしてるのにさ。終わったら高い肉おごらせよーっと」
【天城成海】
「……あ!スタンバイ呼ばれたよ!行こう!ほら、夕星!」
【音石夕星】
「わ!待ってよなるなる引っ張らないで~!」
【音石夕星】
(そう、こいつらと味わうこの感覚が堪らない。満たされたと思ってもすぐに欲しくなって、何度でも、何度でも手を伸ばす)
【音石夕星】
(亜貴がレヴァフェという場所で強くなっていったように、僕は、僕の居場所から“最高”を見せてあげるよ――)
***
【香椎玲音】
「ハッピーハロウィーン!」
【香椎玲音】
「盛り上がってくれてありがとなー!次はこいつらの番だ!」
【天城成海】
「――甘いパフェの次は、禁断の果実を召し上がれ」
【青井有紀】
「トリック・オア・トリート!」
【黒沢忍】
「存分に楽しんでくれ」
【音石夕星】
「ほら!あんた達、ちゃんとついて来な!」
【観客】
「今度はアッポリ!?」
【観客】
「NaL--!!」
【観客】
「すごい!最高のハロウィンだ!!」
***
【香椎亜貴】
「みんな、今日はありがとう!これで全バンドのステージが終わりました」
【音石夕星】
「ハロウィンパーティー、案外楽しかったねぇ。来年もあるなら、また演奏してあげてもいいかなって思ったよ」
【香椎亜貴】
「ふふっ、そうですね」
【香椎亜貴】
「このインクル……VIVIANITE INCLUSIONはまだまだ出来たばかりだけど、この場所が、たくさんの音楽好きの皆さんに愛される素敵なライブハウスに成長することを願っています」
【香椎亜貴】
「そして、今日パフォーマンスを披露してくれた新人バンドマンの皆さんのことも、よろしくお願いします!」
【香椎亜貴】
「それじゃあ、最後に……皆さん!」
【亜貴・夕星】
「ハッピーハロウィーン!!」
***
【香椎亜貴】
「や……やっと終わっ……」
【香椎亜貴】
「あっ!」
【音石夕星】
「っ、とぉ~……」
【音石夕星】
「終わった瞬間、腰が抜けちゃうなんてあーちゃんはやっぱりあーちゃんだねぇ~」
【香椎亜貴】
「あ……ありがとうございます……。ほっとしたら力が抜けて……」
【音石夕星】
「成長したかなーって思ってたけど、まぁ人ってそんな簡単に変わんないか♥」
【香椎亜貴】
「あはは……そうですね……」
【香椎亜貴】
「……夕星さん。どうもありがとうございました。僕、たくさん助けていただきましたよね」
【音石夕星】
「なーに、真面目な顔しちゃって」
【音石夕星】
「助けたつもりなんてないよ。それに、なんだかんだ準備も本番も楽しかったしねぇ~」
【香椎亜貴】
「また、よろしくお願いします!」
【音石夕星】
「それは気が向いたら、ね♥」
自分とは全然違う存在なのに、
誰よりも似ているように感じる
だけど、違うその部分がちぐはぐで
言葉に出来ない苛立ちを感じる
――『苦手』だな
――『大嫌い』
そう思っていたはずなのに、今は……
違うようで似ていて
似ているようで違う
“僕”と“僕”の物語は
“僕”の意思とは関係なしにこれからも続いていくんだろう
だって僕らは、強い感情の鎖で繋がり合った存在なのだから――
END