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UK Birthday Story 前編

 


『音楽を創り出す理由 前編』


 

――10月某日、とある出版社の一室にて。

 

【インタビュアー】
「本日はDYNAMIC CHORD社の人気バンド、Liar-Sの作曲家の珠洲乃さんとapple-polisherで主に作曲を担当しているUKさん」

 

【インタビュアー】
「おふたりの音楽観に関して色々質問していきたいと思います」

 

【有紀】
「はい、よろしくお願いします」

 

【千哉】
「お願いします」

 

【インタビュアー】
「まず、珠洲乃さんは、作詞と作曲、すべて担当されているんですよね?」

 

【千哉】
「はい、そうです」

 

【インタビュアー】
「普段はどのように作曲されているんですか?」

 

【千哉】
「こういった曲調のものをやりたい……と、事前にメンバーと相談して、そこからイメージを膨らませています」

 

【インタビュアー】
「なるほど……UKさんはどうでしょう?」

 

【有紀】
「うちの場合は、一応メンバーと“誰が次の曲作る?”って相談してから決めますが、大体俺が作ることが多いですね」

 

【インタビュアー】
「apple-polisherの曲の軸となっているのは、UKさんの作曲、というイメージがありますね!」

 

【有紀】
「ToiやKuroは、アップテンポな曲はあんまり作らないから、そう思うのかもしれないですね」

 

【千哉】
「UKさんは、作曲をする際はすべて打ち込みなんですか?」

 

【有紀】
「そうですね、基本的には打ち込みです。ギターに触っている時に曲が浮かんだ場合はそのままギターで始めることもあります」

 

【千哉】
「UKさんが手がけた曲だけ挙げてもアッポリの曲は多彩ですごいなって……尊敬します」

 

【有紀】
「いえ、そんな。ありがとうございます」

 

***

 

【インタビュアー】
「では、最後の質問になります」

 

【インタビュアー】
「おふたりが、『音楽を創り出していく理由』をお聞かせください」

 

【千哉】
「そうですね……元々は自分だけで完結した音楽の世界に閉じこもっていた。それが楽しかったし、それでいいと思っていました」

 

【千哉】
「だけど、当時委員会の先輩だった芹に突然バンドに誘われて……そして、朔良と出会った」

 

【千哉】
「その時、思ったんです。朔良の歌声が最も生かせる曲がこの世界にないって……」

 

【千哉】
「それで…………恥ずかしいんですけど、それは嫌だなって。朔良の歌声が魅力的に響く曲を作りたい、って思って」

 

【千哉】
「だから今も、朔良の歌声に合う曲を作るのが、僕の『音楽を創り出す理由』ですね」

 

【インタビュアー】
「珠洲乃さんのメンバー愛が伝わってきます。では、UKさんはどうでしょう?」

 

【有紀】
「あー、俺は………………」

 

【有紀】
「音楽が好きだから……ですかね」

 

【インタビュアー】
「なるほど。UKさんは純粋な気持ちを、ずっと大切に持ち続けているわけですね!」

 

【有紀】
「ははっ。ええまあ、そんな感じですね」

 

【千哉】
「……?」

 

【インタビュアー】
「インタビューはこれで以上になります。本日はありがとうございました!」

 

【千哉】
「こちらこそ、ありがとうございました」

 

【有紀】
「お疲れ様です」

 

***

 

【有紀】
「ふぅ、終わった終わった~。珠洲乃さん。お疲れ様でした」

 

【千哉】
「お疲れ様です」

 

【有紀】
「俺、仕事があるんでこれから事務所に行くんですけど、珠洲乃さんは?」

 

【千哉】
「あ、僕はこのまま家に帰ります……」

 

【千哉】
(さっきのインタビュー、青井さんの答えがどうしても気になるんだよな……)

 

【千哉】
「あの!方向は一緒なので、良ければ一緒してもいいでしょうか?」

 

【有紀】
「ええ、もちろん。じゃ、タクシー拾いましょうか」

 

***

 

――事務所に向かうタクシー車内。

 

【有紀】
「さっきの珠洲乃さんのインタビュー、俺も成海に対して同じような感情を持っていたので、すごく共感しましたよ」

 

【千哉】
「え?」

 

【有紀】
「“朔良の歌声に合う曲を作る”ってやつです。俺も、少し前までは成海の歌声に合う曲ばかり作ってたんです」

 

【千哉】
「ああ……確かに、デビュー曲や『real sensation』は、天城の歌声が全面に押し出されていましたね」

 

【有紀】
「そうなんですよ。しかも俺の場合、完全に無意識だったんですよね……」

 

【有紀】
「それを夕星や成海や……あと知り合いにも指摘されて……それ以来、曲の作り方や意識を変えたんです」

 

【有紀】
「あいつらと上を目指すには、変えなくちゃいけない部分だった」

 

【千哉】
(……やっぱり、僕の考えは勘違いじゃなかった)

 

【千哉】
「……あの、失礼なことをお聞きしますが」

 

【有紀】
「ん?」

 

【千哉】
「青井さんは、『音楽を創り出す理由』を“音楽が好きだから”って答えていましたよね」

 

【千哉】
「でも、僕にはどうしても、青井さんはそれ以上の想いがあって作曲をしているように思うんです」

 

【有紀】
「……」

 

【千哉】
「どうして、あんな曖昧な答えだったのかなってずっと気になってしまって……すみません、変なことを聞いて」

 

【有紀】
「いえ。珠洲乃さんに気を遣わせてしまいましたね」

 

【有紀】
「……音楽が好きでやってるのは本当ですよ。ただ……俺にとっての音楽は、話し出すとちょっと長くなるというか」

 

【有紀】
「インタビューで笑顔で答えられるような内容じゃないんですよ」

 

【千哉】
「え……」

 

【有紀】
「珠洲乃さんのように、純粋で綺麗な理由で音楽を作っている訳じゃないので」

 

【千哉】
「僕とは、違う……?」

 

【有紀】
「すみません。変なこと言って」

 

【有紀】
「ほら、雑誌の掲載にも限界があるじゃないですか。だからあんまり長く語るわけにもいかないというか」

 

【千哉】
「あ、ああ。そうですよね」

 

【有紀】
「長々と話した後にインタビューが掲載されてる雑誌を見たら、ざっくりカットされてる……なんて、よくあることでしょう?」

 

【有紀】
「いろいろ話して大事な部分をカットされたら、読んでる人に伝わらないかもしれない」

 

【有紀】
「それなら、短いほうがいいかなって思ったんですよ」

 

【千哉】
「青井さんは、いろいろ考えているんですね」

 

【有紀】
「前にあったんですよ。新曲のことあれこれ喋りすぎちゃって、雑誌見たらばっさり!」

 

【千哉】
「あ、それ僕もあります。アルバムの制作秘話を……って言われて、つい話しすぎてしまって」

 

【有紀】
「ははは!作り手には良くある話ですよね」

 

【千哉】
(僕とは違う、純粋じゃない感情……それって、どんな感情なんだろう……?)

 

【千哉】
(青井さんとはあまり話したことないけど、音楽に対する気持ちが人一倍深いのは伝わってくる)

 

【千哉】
(もしかして、僕が思っている以上に、青井さんは音楽に対して執着しているのかもしれないな)

 

【千哉】
(青井さんが抱える感情……気になる……)

 

【千哉】
「あの、青井さん――」

 

【有紀】
「あ、事務所ついたな。じゃあ珠洲乃さん、お先失礼します」

 

【有紀】
「芹によろしく伝えておいてください。また飲もうなって」

 

【千哉】
「あ、はい。わかりました。お疲れ様です」

 

【千哉】
(聞きそびれた……)

 

【千哉】
「……純粋で綺麗じゃない想い、か」

 

【千哉】
(青井さんの音楽に対する気持ち、一度聞いてみたいな)

 

***

 

――DYNAMIC CHORD社・社内。

 

【有紀】
「打ち合わせの時間まであと少し……タバコ吸う余裕くらいはあるか」

 

【有紀】
「……ふぅ」

 

【有紀】
(しかし、同じようにヴォーカルの歌声を愛してる作曲者でも、珠洲乃さんと俺じゃ、あんなに違うもんなんだな)

 

【有紀】
(そりゃそうか、音楽に対する気持ちのベクトルも違うんだ)

 

【有紀】
「……俺が『音楽を創り出す理由』、か」

 

【有紀】
(俺の音楽への気持ちは、他人に聞かせられるような話じゃない)

 

【有紀】
(空っぽの俺にとって、音楽だけが生きるすべてで……音楽がなきゃ、俺は生きる価値すらない存在だって思ってた)

 

【有紀】
(だからすべてを捨てて、忍もいる東京で音楽を続けることを選んだ)

 

【有紀】
(なのに、高校時代からのバンドは解散。忍はそれをきっかけに音楽を辞めて……)

 

【有紀】
(あの時は……正直、忍がうらやましかった。あいつは音楽をしていなくても生きられるのか、って)

 

【有紀】
(他のメンバーもそれぞれ地元に戻って仕事を見つけたけど、俺だけが音楽にしがみついて、新しいバンドメンバーを探してた)

 

【有紀】
(だけど、理想のヴォーカルに出会えなくて……どんどん毎日が息苦しくなった)

 

【有紀】
(金もない、食欲もない、夢描いた未来はどんどん薄らいでいく)

 

【有紀】
(このまま死ぬかもしれない、なんて本気で考えてたっけ)

 

【有紀】
(そんな時だった。あいつに会ったのは……)

 

【有紀】
(ほんと、冗談じゃなく俺にとってあいつは天使だったんだ)

 

【有紀】
(突然俺の人生に現れて、その翼を広げてみせたように……)

 

+++

 

――数年前、VIVIANITEでの成海のライブ後。

 

【有紀】
「お前、ソロでやってんのか?」

 

【成海】
「そ、そうです……けど……なんですか?」

 

【有紀】
「なあ、ちょっと俺にナンパされない?」

 

+++

 

【有紀】
「…………自分で思い返してもヤバいな」

 

【有紀】
(あの初対面で、俺は成海に『危ない人』認定されて……見事に逃げられた)

 

【有紀】
(けど、それでもめげずに、必死に成海を追い回し続けて……)

 

【有紀】
(おかげでしばらく、VIVIANITEや他のライブハウスで俺が若い男を追い回してるって噂になったんだよなー)

 

【有紀】
(でも、やっと俺の理想の歌声を持つヤツを見つけたんだ。誰になんて思われようと、逃したくなかった)

 

【有紀】
「……はは、必死だったな」

 

【有紀】
(忍を呼び戻して、成海が俺達のバンドに入ってくれて……俺はやっと、俺の居場所を作り上げることが出来た)

 

【有紀】
(誰にも邪魔させない。誰にも傷つけさせない。これは俺が見つけた、俺の宝物)

 

【有紀】
(あの頃の俺も、apを守ることが一番だったけど……)

 

【有紀】
(アメリカに渡って夕星を見つけてからは、その気持ちがより一層強くなった)

 

【有紀】
(そりゃそうだよな。俺の望んだ以上の音を出すドラムを見つけたんだ。理想が完成したんだから)

 

【有紀】
(apっていう居場所を手放したくないのは今も同じだ。大事にしたいのは、今も変わらない)

 

【有紀】
(でも、今はそれだけじゃないんだよな……)

 

【有紀】
「生きるために音楽をするんじゃなくて、今は――」

 

【有紀】
「って、びっくりした。電話か……あ、忍だ」

 

【有紀】
「うわっ!そろそろ打ち合わせの時間か。はいはい、戻りますよ」

 

 

後編へ続く