【先生】「あーそれじゃあ席は……」
【ゼン】「自分が座るところくらい、自分で決めるわ」
【リッカ】「ご心配は無用です」
【先生】「あっ、お、おい!」
2人は先生を無視して、ずかずかと私の方に向かって歩いてくる。
【ほとり】「あ、あの……やっぱりゼンさんとリッカさん?」
【ゼン】「は? なに言ってんだお前? どこをどう見たってそうだろ?」
【ほとり】「な、何をしてるんですか?」
【リッカ】「あなたが言ったのでしょう。あの格好では学校にそぐわないと」
【ほとり】「確かに言いましたけど、でも……」
(まさか、制服を用意して転校してくるなんて……)
【ゼン】「おら、邪魔だどけ」
【男子生徒1】「えっ!? わわっ」
【リッカ】「あなたもです。おどきなさい」
【女子生徒1】「きゃっ!?」
【ほとり】「ちょ、ちょっと2人とも……!」
2人は問答無用で、私の両側に座っていた生徒2人を退かせる。
そして右にゼンさん、
左にリッカさんがそれぞれ席に着いた。
【先生】「乱暴はよしなさい」
【ゼン】「っるせーな、別に席なんてどこだっていいだろう」
【先生】「そんな勝手は――」
先生が言いかけたところで、ゼンさんがものすごい迫力で先生を睨みつけた。
【先生】「うっ……。わ、分かった、好きにしなさい。とんだ転校生が来たもんだ」
竦んでしまいそうになるぐらいの鋭い視線に、先生もそれ以上何も言えなくなってしまう。
【リッカ】「お2人ともご協力いただき、ありがとうございました。ありがたく座らせていただきますね」
【男子生徒1】「え……あ、いや……」
【女子生徒1】「は、はい。喜んでもらえたならよかったです」
席を失った2人に対し、とどめとばかりにリッカさんが笑顔でお礼を言う。
すると、2人はいよいよ反論できなくなって、渋々といった様子で新しい席に移動していった。
【ゼン】「とりあえず、しくよろ~」
【ほとり】「…………」
【ゼン】「なんだよ、照れてんのか?」
【静流】「ごめんね。彼女は少し人見知りをするんだ」
クラスのみんなが2人を奇異の目で見る中、静流君は全く気にする様子もなく話しかけた。
【リッカ】「……あなたは?」
【静流】「あ、ごめんね。挨拶が先だよね」
【静流】「僕は早坂静流。クラス委員をしてるんだ。困った事があったら何でも聞いてね」
【ゼン】「ははぁ~ん? お前が例の“王子様”だな」
【静流】「王子……様?」
【ほとり】「ぜ、ゼンさん!」
【ゼン】「わーった、わーった。そう騒ぐなって」
ゼンさんはニヤニヤしながら、私と静流君を交互に見る。
(どうしよう……悪い予感しかしない)
私はこの先のことを思って、深々とため息をついたのだった。
コンビニからの帰り道。
途中、ゼンさんが立ち止って空を見上げた。
【ゼン】「オレさ……」
ぽつり、ぽつりと話し始めたゼンさんの声に、耳を傾ける。
【ゼン】「死神になってからの方が案外楽しい事が多いんだ」
【ほとり】「どうしてですか……?」
【ゼン】「一目でどこに何があるか分かるし、足を一歩踏み出すのも、迷いなく出来る」
【ゼン】「同じ言葉だって、相手がどんな顔してそう言ったのか見えるのと見えないのとじゃ、全く違う」
【ゼン】「お前がどんな風に笑って、怒って、照れるのか、泣くとブサイクになる事とか、たくさん知れた」
そこでゼンさんは一度息を吐き出して、大きく吸い込んだ。
冷たい空気が揺れ動く。
【ゼン】「星空がこうやって普通に見える事が、どんなにすごい事か……ほとりには分からないだろうな」
空に向かって投げていたゼンさんの言葉が、彼が私へ振り向いた瞬間、こちらに流れてくる。
その眼差しは優しくて、諦めを含んでいた。
※ネタバレを含むため、一部ゲーム上とテキストが異なります。
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
重い瞼を開けると、そこにはやっぱり頭に思い描いた通りの2人が立っていた。
【ゼン】「お! 起きやがった」
【リッカ】「枕元でそれだけ大きな声で話されれば、誰でも起きると思いますよ」
【ゼン】「なんだよ! お前だって喋ってたじゃねぇかよ」
【リッカ】「あなたのように、馬鹿みたいに大きな声では話していませんよ」
【ゼン】「オレ様基準じゃ、ひょーじゅんだ」
【リッカ】「はぁ……もう結構です。これ以上あなたと話していても不毛なだけです
【ゼン】「あ? なにヘソ曲げてんだよ」
【リッカ】「呆れているんですよ」
【ゼン】「あぁそうですか~~。よーーし、んじゃ帰ろうぜ。コイツも起きたことだしな」
【ほとり】「は、はい」
よく見ると、ゼンさんは私のバッグを手に持っていた。
【ほとり】「ごめんなさい。荷物――」
ゼンさんにお礼を言いかけたところで、リッカさんが私に身体を寄せてきた。そして――……
【ほとり】「きゃっ!?」
背中に腕を回したかと思ったら、そのまま抱き上げられてしまった。
(こ、これってお姫様だっこ!?)
初めての体験に、頭がぐるぐるする。
気恥ずかしさに耐えられずに、そっと目を伏せると、静流君の顔が見えなくなる。
【静流】「…………キスしていい?」
その問いがくることを何となく覚悟していた。
恥ずかしくて、どうしようもなく恥ずかしくて、今すぐこの場から逃げ出したくなる気持ちと、
静流君と触れたいという気持ちが重なって、身動きが取れなくなる。
【静流】「ちょっと早い、かな……」
少し掠れた声に、彼の不安と怯えを感じる。
(私は……)
首を横に振る。
【静流】「……いいの?」
今度は首を縦に振る。これが今の私にできる精いっぱいの返事。
【静流】「ありがとう……」
その言葉を合図に私は目を閉じた。
そして……。
【静流】「……」
唇が触れた。
それは一瞬だった。
本当に一瞬。
でも、確かに私は静流君とキスをした。
恐る恐る目を開けると、目の前には顔を真っ赤にした静流君がいた。
【静流】「……」
【静流】「どうしよう。嬉しくて……泣きそう」
そう言って、静流君は今にも泣きそうな顔で満面の笑みを浮かべた。
私とのキスが彼を幸せにしているのかと思ったら胸がいっぱいになって、視界がにじんだ。