未公開イベント YUU -信頼シナリオ-
『込められた想い』
――ある日、YUUの自宅にて。
【黒谷優】
「……電話?五十嵐からか……はい」
【五十嵐八雲】
『あ、お疲れ様です、五十嵐です。優さんへのファンレターが事務所に結構溜まってきていまして』
【五十嵐八雲】
『お時間がある時に確認へお越しいただいても良いでしょうか?』
【黒谷優】
「……わかった。今日は時間があるから今から向かう」
【五十嵐八雲】
『ありがとうございます!お待ちしていますね』
***
――DYNAMIC CHORD社、会議室にて。
【五十嵐八雲】
「優さん、お疲れ様です」
【黒谷優】
「お疲れ様」
【五十嵐八雲】
「先ほどお伝えしていたのはこちらです。ファンレター以外にメッセージカードなどもありますので、ご覧ください」
【五十嵐八雲】
「これ、全部優さん個人宛なんてすごいですよね……!」
【黒谷優】
「別に……」
【五十嵐八雲】
「レヴァフェも、メンバー個人宛でこのくらいファンレターが届くように頑張らないと」
【黒谷優】
「レヴァフェなら、じきにきっとそうなる」
【五十嵐八雲】
「ありがとうございます。優さんにそう言っていただけると心強いです」
【五十嵐八雲】
「この部屋は今日は他に使用予定がないので、ご自由にご覧ください。さすがにその量を全部確認するとなるとかなり時間がかかると思いますし……」
【黒谷優】
「ああ。適当に座って読ませてもらう」
【五十嵐八雲】
「はい。では、僕はこれで失礼しますね」
***
【黒谷優】
「…………」
【黒谷優】
「ん?」
【珠洲乃千哉】
「失礼します。黒谷さん、お疲れ様です」
【黒谷優】
「珠洲乃か。お疲れ」
【珠洲乃千哉】
「すごい量の手紙ですね……。全部ファンレターですか?」
【黒谷優】
「まあ、そう。珠洲乃はどうしてここに?」
【珠洲乃千哉】
「たぶん、黒谷さんと同じ理由です。クルーからファンレターやメッセージカードが届いているからって加賀さんから連絡をもらって」
【黒谷優】
「そうか。確かにオレと同じだな」
【珠洲乃千哉】
「ふふ、やっぱり」
【黒谷優】
「仕事であちこち行くと、ゆっくり手紙を読む時間がなくて溜まる一方だ」
【珠洲乃千哉】
「そうですよね。KYOHSOは僕達よりもずっとお忙しいですから」
【珠洲乃千哉】
「黒谷さん。僕もここで自分宛てのファンレターを読んでいても良いですか?」
【黒谷優】
「ああ」
【黒谷優】
(オレも読むとするか……)
『KYOHSOが大好き!』
『DVDがすりきれるくらい、何度も何度もライブ映像を繰り返し観ています!』
『KYOHSOのライブをご褒美だと思えば勉強も部活も塾も頑張れるんです』
『YUUくんのベースが大好きです!これからもずっと応援しています!』
『YUUさんに憧れてベースを始めました。いつか共演できるのを夢見て頑張っています』
【黒谷優】
「ふ……」
【黒谷優】
(これは……?手が込んでるカードだな……ハロウィンか)
『ハロウィン特番、頑張ってください!生放送なので早く仕事終わらせて待機しています!』
『Halloween music show!楽しみにしてます』
『ハロウィンの音楽番組、生放送なんですね!ライブはもちろん、衣装も楽しみにしてます!』
【黒谷優】
「……」
【黒谷優】
(……音楽は、元々自分が望んで始めたものじゃなかった)
【黒谷優】
(バンドマンになったのも、依都が無理矢理誘ってきたからで……)
【黒谷優】
(ベースも自分で選んだ楽器じゃない。ベースしか残ってなかったから弾いてるだけ)
【黒谷優】
(でも、目の前の音楽に何年も、何年も真剣に向き合い続けた結果……)
【黒谷優】
(こんなにも大勢のファンが、オレの音と、オレ達の音楽を聴いてくれるようになった)
【黒谷優】
(これはすごく贅沢で、幸せなことなのかもしれない)
【珠洲乃千哉】
「……ふふっ」
【黒谷優】
「……?」
【黒谷優】
(珠洲乃……嬉しそうだな……)
【珠洲乃千哉】
「……?あ、あの……黒谷さん……?僕の顔になにか付いていますか?」
【黒谷優】
「あ、悪い。随分嬉しそうだったから」
【珠洲乃千哉】
「あ……はい。こうやってたくさんの手紙やプレゼントを貰うと、僕達ももっと頑張らなくちゃという気持ちになります」
【黒谷優】
「そうか。どんな内容が書いてあるんだ?」
【珠洲乃千哉】
「……こんな感じです」
『毎日がLiar-Sに溢れています。通学する朝の電車から夜眠る時まで――』
『――私の日常の中にLiar-Sの音楽が存在しています。Liar-Sの楽曲は私の一部です』
『珠洲乃さんが生み出す音楽に惚れ込んでいます。毎日毎日聴いてます!』
【黒谷優】
「よかったな。オレもLiar-Sの曲はたまに聴く」
【珠洲乃千哉】
「え!黒谷さんがですか!?あ、ありがとうございます。すごく嬉しいです……!」
【黒谷優】
「そうか」
【黒谷優】
「手紙、綺麗にしまうんだな」
【珠洲乃千哉】
「はい、大切な物ですから。なるべく綺麗な状態でとっておきたいんです」
【黒谷優】
「手紙を送ったファンも嬉しいだろうな。……珠洲乃は、ファンレターを誰かに書いたことあるのか?」
【珠洲乃千哉】
「えっ!?……ええと……一応、ない、です」
【黒谷優】
「一応?書いたことはある、ってこと?」
【珠洲乃千哉】
「その……これは内緒にしてくださいね?」
【黒谷優】
「ああ」
【珠洲乃千哉】
「実は……学生の時に一度、書いたことはあります。でも、結局送れていないので……書いたことがあるだけです」
【黒谷優】
「どうして送らなかったんだ?書いてから相手のことが好きじゃなくなった、とか?」
【珠洲乃千哉】
「いえ、まさか!今でも大好きです!」
【黒谷優】
「じゃあ、どうして……、」
【加賀真実】
「千哉」
【珠洲乃千哉】
「あ、加賀さん」
【加賀真実】
「すみません、偶然通りがかったところに話している声が聞こえたので」
【黒谷優】
「構わない」
【加賀真実】
「千哉、いい機会ですから伝えたらどうですか?数年越しの気持ちを」
【珠洲乃千哉】
「そ、そう……ですね……」
【黒谷優】
「珠洲乃?」
【珠洲乃千哉】
「……僕が書いたファンレターは、これまでに一番影響を受けた大切なバンドへ向けたもの――」
【珠洲乃千哉】
「KYOHSOへのファンレターです」
【黒谷優】
「オレ達に?」
【珠洲乃千哉】
「は、はい」
【黒谷優】
「……そうだったのか。どんな内容だったのか、聞いても良いか?」
【珠洲乃千哉】
「うっ、そ、その……ご本人を前に言うのは……」
【加賀真実】
「千哉、ここまで来たら言ってしまいなさい」
【珠洲乃千哉】
「うう……はい」
【珠洲乃千哉】
「……『英さんの作る音楽がとても好きです』『初めてKYOHSOの曲を聞いた時の、心揺さぶられる感覚が忘れられない』、と……。KYOHSOは、音楽の素晴らしさを改めて僕に教えてくれました」
【珠洲乃千哉】
「僕がロックの魅力を知るキッカケになった、大切なバンドなんです」
【珠洲乃千哉】
「KYOHSOがいなかったら、僕はギターを手に取ることなんてなかったかもしれない……」
【珠洲乃千哉】
「だから、その……ありがとうございます……!」
【黒谷優】
「……」
【珠洲乃千哉】
「あ、あの黒谷さん! 今のは他のKYOHSOのメンバーの方々には絶対に言わないでくださいね!」
【黒谷優】
「今のを聞いて不快に感じるメンバーはいない……喜ぶと思う。でも、珠洲乃がそこまで言うなら言わない」
【珠洲乃千哉】
「よかった。ありがとうございます……」
【黒谷優】
「それはオレの台詞。……ありがとう。珠洲乃の想いを、数年越しに伝えてくれて」
【珠洲乃千哉】
「……っ!い、いえ、とんでもないです!」
【黒谷優】
(ファンレターには、ファンひとりひとりの想いが込められてる。その気持ちごと、しっかり受け止めないとな)
END