DYNAMIC CHORD | 公式ブログ

ここからは、ちょっとした置き土産にSSを公開させて頂きます。

八雲がレヴァフェメンバーとほっこりごはんを食べるお話になっています。
よかったら、読んでみてください。

『[rêve parfait]メンバーとごはん』

いつもの練習を終えて繁華街のスタジオから出ると、５人は駅前のファミレスに入った。
この店で夕食を食べるのは、彼らが[reve parfait]になった時から変わらなかった。それは、プロになった今でも変わらない。
メンバーのうち誰か１人に予定が入れば、３人でも。練習が終わった後は、一緒に夕食を食べていた。

「あー、腹減ったー」
「オレもー。早くメシ食おうぜ」
ボックス席についた５人は、さっそくメニューを覗き込む。
２つあるメニューをそれぞれ開けばいいものの、なぜか１つのメニューを４人で覗く。それを見る八雲の口元が緩んだ。
４人とも、もう１つメニューがあることを忘れているわけではない。
みんなで覗くのが高校時代からのクセになって、もう１つを開こうとしないだけだ。
お互い好きなところを開いてゴチャゴチャと文句を言うものの、それをやめようとしない。
八雲は、そんな４人を見るのが好きだった。

「よっし！　オレ、目玉焼き乗せハンバーグ。Ａセットな」
「玲音さ、いつもハンバーグ頼むよな？　……子ども舌」
「うっせ。そういうつむぎこそ、いつもドリアとかガキが食いそうなのばっかじゃねーか」
「そっちこそうるせーよ！」
「先に言ってきたのはそっちだろ！」
隣同士でいがみ合う玲音とつむぎを、向かいに座っていた亜貴が苦笑いで見守る。
出会った当初は顔を合わせればすぐ口喧嘩だったので、慣れてしまったらしい。今ではちょっとした言い合いくらいでは、注意しない。
２人のケンカがかなりヒートアップし、周りに迷惑をかけそうな時や殴り合いが始まりそうになった時だけ、久遠か八雲が止めに入る。
今日は「お前ら、おとなしくしろよ」と久遠が注意するものの、自分もメニューを見るのに忙しいらしい。視線を忙しなく動かしている。
「あー、俺はカツ丼にするかな。亜貴、何食う？」
「んー……何にしよう。やっくんはもう決めた？」
「実は、僕もまだ決まってないんだ」
「２人は決めるの遅いよなぁ」
久遠は苦笑しながら、亜貴にメニューを渡した。すると、今度は八雲と亜貴で１つのメニューを覗き込み始める。
あれでもないこれでもない、と２人はページを進めたり戻したりを繰り返し始めた。
それが長くなることがわかっているから、３人は今日の練習について話し合う。
「なあ、今日の音ちょっと低すぎなかったか？」
「そうか？　俺は良かったと思うけどな」
「久遠は重低音大好きだから気にならなかっただけだろ」
玲音と久遠は、音の好みが違う。それで毎回「あーでもないこーでもない」と言い合うことがあった。
それにストップをかけるのは、つむぎの役目。
「久遠の音、あんま出てなかったし、玲音の言う通りじゃない？」
「え、マジで？」
「マジ。多分、弦が緩んでんだよ」
「あー、最近メンテサボッてたからなぁ。そろそろ弦張り替えるか」
「んで、玲音」
「んー？」
「今日、高音の伸びが弱かった」
「あー、やっぱつむぎにはバレたか。ちょっと歌い方変えてみたんだよな。んでも、戻すわ」

そこから音楽の話で盛り上がる３人のそばで、亜貴と八雲はまだメニューを覗き込んでいた。
「うーん、豆腐ハンバーグ美味しそうだなあ。ねえ、やっくんは何にする？」
「最近ファストフードばかり食べていたから、たまには魚にしようかなって思ってるんだ」
「魚もいいね！」
「でも、この照り焼きチキンも捨てがたくって」
「あー、それも美味しそう……あ！　しらすのパスタもいいなあ」
２人がウンウンと唸っていると、玲音が顔を向けた。
「まだ決まんねーの？」
「ごめんね、玲音。パスタにしようか和定食にしようか、悩んでて……」
「亜貴、この前も和定食食ってなかった？」
「うっ！　ももちゃん、よく見てるね。そうなんだよ、だから他のにしようかなと思ってるんだけど……」
「他のを見ても、しっくりこないって事か。なら、また和定食にすればいいだろ」
久遠に指摘され、やっと亜貴が「そうだね」と納得し始めた。
自分では決められないが、誰か……特に久遠が決めたものなら、亜貴は納得する。
「うん！　やっぱり和定食にするよ。ここのお魚、季節によって違うしね」
「八雲は？」
久遠に名前を呼ばれ、八雲もやっと顔を上げ「照り焼きチキンにするよ」と苦笑。
２人が決めるまでに、軽く２０分は経過していた。

やっと注文を終えると、料理が届くまで、５人は他愛ない話を始める。
バンドの事はもちろん、学校での事やくだらない事をダラダラと。

「もうすぐ、ももの卒業式だなー」
「またオレ達で歌おうぜ！」
玲音の提案に、つむぎは眉間に皺を寄せ、明らかに嫌そうな顔をした。
「あんた達もう卒業してんだから、来るなよ」
「卒業してるからこそ、OBとして祝ってやるんだろ」
「迷惑」
「なんだと！」
「なんだよ」
玲音とつむぎがまた言い合いをしそうになったのを、亜貴が「まあまあ」となだめる。
すると２人は言葉にこそ出さないが、眉を吊り上げて睨み合い。
そんな２人に、久遠は苦笑しながら視線を八雲へと向けた。
「学校からはすでに依頼受けてるんだよ。スケジュールってどうなってるんだ？」
「つむぎの卒業式だから、もちろん空けてあるよ」
「良かった！　助かるよ」
「ただ、無料で請けるにしても会社には通しておかないといけないから……その話は、社長に通してからでもいいかな？」
「ああ！　頼む！」
「つむぎの卒業式、いいものにしたいね」
微笑む八雲に、久遠だけでなく亜貴も大きく頷いた。
彼らが『彼ら』になった場所。
そこから最後のメンバーが卒業するのだ。気合いが入らないわけがない。

そこへ、料理が運ばれてきた。
すると玲音とつむぎの目の色が、同時に変わる。
「うまそ～♪」
「玲音、ちゃんといただきます、しなきゃ」
亜貴に指摘されても、玲音の目はハンバーグに注がれたまま。
「わかってるよ」と言いながら、フォークとナイフを手にしていた。
そんな弟に苦笑しながら、他のメンバーにも箸やフォークを渡していく。
それを受け取る間に、全員の料理が運ばれてきた。すると、亜貴が声をかける。

「おててぱっちん」

すると全員、両手を重ねる。
「いただきます」
全員の声が、綺麗に重なった。

これはレヴァフェメンバーが全員でご飯を食べる時の決まりだった。
つむぎは最初こそ嫌がったが、亜貴に「みんなでいただきますをすると、一緒に食べている実感が湧いて嬉しくなる」と言われて以来、それに従うようになった。
だからこうしてみんなとご飯を食べる時は、「いただきます」を言うようにする。
それは、寂しがり屋の亜貴のためだけではない。玲音のためでもあった。
再婚した母親は海外での仕事で、１年のうち家にいれるのは数日程度。
そのため、玲音は実質一人暮らしだった。
亜貴はそれをひどく心配して、出来るかぎり玲音と共に食事をしたがる。
玲音はそんな亜貴の気持ちを知っているから、そばにいる。
もちろん亜貴の思っている通り、１人でいる家は寂しいからだ。

だが、それは香椎兄弟だけではない。

久遠も、普段家には誰もいないため、誰かと一緒のご飯を楽しんでいた。
つむぎはこだわってこそいないが、仲間と過ごす時間に心地よさを感じている。
八雲も、デスクで寂しく食べる時間が多いので、こうして一緒にいれることが嬉しかった。

５人とも、それぞれの想いで、みんなとの食事の時間を過ごしていた。

「もも、それ何食ってんだ？　お前が頼んだのってパスタだろ」
「イカリング」
「なんでだよ！　イカリング入ってるパスタってなんだよ！」
久遠の突っ込みに、亜貴が顔を覗かせる。
「確かももちゃんは、イカリングのトマトパスタだよね。美味しそ～」
目を輝かせる亜貴を見て、つむぎは少し考えてからイカリングをフォークに刺して突き出した。
「ん」
「くれるの？　ありがとう！」
遠慮なくつむぎのフォークからイカリングを食べる亜貴。
その顔がふにゃっと柔らかいものに変わると、つむぎも心なしか嬉しそうな顔をした。
「なあ、もも！　俺にも一口……」
「ダメに決まってんだろ」
「なんで亜貴にはよくて、俺はダメなんだ！？」
「なんか嫌」
つむぎの素っ気ない言葉に、久遠は子どものように拗ねる。
すると玲音が笑いながら、フォークに刺したハンバーグを突き出した。
「オレのハンバーグやるから諦めろよ」
「いや、別にどうしても食べたいってわけじゃないぞ」
「久遠食べないの？　じゃあ、僕が食べちゃおうっかな～」
「んじゃ、亜貴の食ってる鮭ちょーだい」
「いいよ～」
皿から鮭をもらうつもりだった玲音だが、亜貴は箸でほぐして食べさせてあげる。
亜貴にとって、玲音はいくつになっても可愛い弟で、面倒見る相手なのだ。
そして玲音にとっても、兄と過ごす時間はかけがえのないもの。
何より、昔から変わらない兄との時間が彼を安心させていた。
だから「子どもじゃねーんだから」と言いながらも、玲音は亜貴に食べさせてもらう。

両親が離婚して離れ離れになっても、自分たちは兄弟として繋がっているんだと実感出来るから。
だから普段はつれない態度を取っても、ふとした瞬間、こうして穏やかな表情を浮かべる。

だが、本人はまったくその事に気付いていない。

「んー！　鮭もうまいな。つーわけで、つむぎのイカリングももらうぞー」
フォークの先端でひょい、とすくい上げ、あっという間に口に放り込んだ。
するとつむぎは、一瞬にしてその端正な顔を歪めた。

「勝手にとんな！」
「いいだろ、別に」
「よくねえ！　返せ！」
短気なつむぎは、言い訳する隙を与えず玲音の胸元を掴みあげている。
玲音もいささか気の短い方なので、すぐに手を出すつむぎに眉を吊り上げた。
どちらも自分の主張を曲げないタイプ。
このまま放っておけば、今度は確実に殴り合いのケンカになる。
それを察して、久遠が片手で止めに入った。
「ストーップ。これ以上やるならつまみ出すぞ」
「俺は悪くない」
「なら、いちいち玲音に突っかかるな」
久遠に叱られ、つむぎはあからさまに不機嫌な顔をする。
すると亜貴がすぐさま、つむぎにほぐしたばかりの鮭を差し出す。
「ももちゃん、あーん」
「……」
不服そうな顔はしたたが、つむぎはそれを遠慮なく口にした。
普段は誰かに甘える、ということはしないつむぎだが、亜貴には別だった。
亡き兄の姿を重ねて……は、いないようだが、亜貴にだけは心を開いている。
つむぎの中で、亜貴は『甘えてもいい人』『優しくしてもいい人』という位置づけになっているようだ。
そしてその枠には、八雲も入っていて……。
「ん」
つむぎはイカリングをフォークで刺して、八雲に突き出した。
「いや！　僕はいいよ！　それはつむぎが食べて」
「あっそ」
こういう時、八雲はいつも戸惑う。
学生時代からの付き合いとは言っても、４人は距離感が近い。
もちろん八雲にも学生時代からの友達はいるが、食べさせあったりなんてしたことがない。
でも４人は、まるで兄弟のような距離感で接している。
微笑ましい反面、中に入るのを躊躇ってしまうのだ。
だが、４人はそんな八雲の遠慮を強引にぶち破る。

「イカリングが嫌なら、ハンバーグやるよ」
玲音がいたずらっ子のような笑顔で、ハンバーグを突き出してきた。
それも遠慮していると、今度は久遠。亜貴も「どうぞ」と出してくる。
距離を詰められることに慣れていない八雲。
でも……
「そんなには食べられないから、１人ずつね」
４人との距離が近くなるほど、八雲は幸せを感じていた。

「ハンバーグのソースと白いメシって合うよな～」
「それわかる。箸が進むんだよな」

お腹が膨れた事で怒りはどこへやら。玲音とつむぎは頬を膨らませながら、次々とご飯を食べていく。
亜貴と久遠は、ご飯を食べながら次に行われるライブの話を始めた。
それを聞きながら、八雲はこの賑やかな空間に居心地の良さを感じながら、ご飯を口に運んだ。


これからも彼は、こんな風にご飯を食べながらわいわい騒いでいると思います（笑）。
読んでくださってありがとうございました！