【有紀】「バンドのためにも、成海のためにも……俺は手段を選んでいる余裕はないんだよ」
【有紀】「大体、お前の容姿なら成海じゃなくていいだろ。どんな男も引く手数多なはずだ」
【有紀】「だからさ……成海はやめてくれないか?」
勝手な言い分に腹が立つ前に、有紀の変貌に呆気に取られてしまう。
(今まで見たどの有紀とも違う……怖い……)
あまりに突然で、あまりに横暴で自分勝手すぎて、頭が追いつかない。
私が何も答えられないでいると、有紀の手が私の顎を掴んだ。
【有紀】「男が欲しいなら、俺が相手してやるよ。だから、成海は諦めな」
【美羽】「は? 私はそんな理由で好きなんじゃ……」
慌てて文句を言おうとした――
けど、その言葉は最後まで紡げなかった。
何の前触れもなく唇を塞がれ、驚きで動けなくなる。
(何……これ……なんで……?)
それがキスだと理解する事は出来るのに、どうしてこうなったのかが分からない。
(私の……ファーストキスが……)
ファーストキスは、もっとキラキラしていてきっと心臓なんて飛び出しそうなほどドキドキする。
そんな事を思っていた私の初めてのキスは、なんの好意も抱かない相手に奪われた。