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  • 【???】「よっこらしょっと……はぁ、やれやれ」

    わたしが馬車に乗り込むと、当たり前のように
    隣にふくろうも座った。

    この口調から判断すると……
    “彼”は、お年を召した方なのかも。

    (……この人は、誰なんだろう?
     わたしを、どこに連れていきたいんだろう?)

    彼に聞きたいことが山ほどあった。

    けれど、言葉を発することができない。
    声の出し方さえも、忘れてしまったみたいに。

    【???】「ホッホ、心配することはありませんよ。
     すべて、ボクに任せなさい」

    ふくろうは目を細めて、優しく微笑む。

    どうしてなのかは分からなかったけど、
    彼が笑うととても安心できた。

    馬車から見える光景は、いつの間にか
    街から、森に移り変わっていた。

    薄暗い森の中を、走って、走って、ひたすら走る。

    そして、ようやく森が終わりに近づいてきたところで……

    (……あれ?)

    森の奥に、古めかしい大きな城のような建物が、
    堂々とそびえ立っているのが垣間見えた。

    馬車はそこへ向かっているようだった。

    (……今日は満月だ)

    不思議な輝きに、目を奪われていると……

    【???】「現世(げんせ)と同じように見えるかい?」

    と、ふくろうに尋ねられた。

    (……げんせ?)

    どういう意味なのかわからないわたしに、
    ただ、ふくろうはホッホと微笑むだけだった。

  • 【カイリ】「……そうか。なら」

    【ココロ】「か、カイリ!? 何を……」

    【カイリ】「お前が俺の顔見たくないって言うからだろ。
     だから……顔は見ないでやる」

    【カイリ】「頼む。本当の事を話してくれないか?
     その涙は……俺のせいかもしれないだろ」

    【ココロ】「そんな事……」

    【カイリ】「もとはと言えば、俺がお前を巻き込んだんだ。
     俺のした事で、知らないうちに
     お前が1人で傷ついてるなんて……そんなのイヤだよ」

    【ココロ】「カイリ……」

    【ココロ】「……わかった。話すよ……」

    カイリを悲しませたくなくて、わたしは
    ルナさんの周りにいた女の子が来た事を話した。

    【カイリ】「……そういう事だったのか。
     ココロは、仕返ししたいか?」

    【ココロ】「……ううん。
     だってあの子には、あの子なりの事情がある」

    【ココロ】「だから……
     辛かったけど、責める気にはならないよ」

    【ココロ】「それにドレスを破いちゃったのは、やっぱり
     わたしの不注意だって事も本当だから」

    【カイリ】「お前はなんでも受け入れすぎだよ。
     もう少し、わがままを言ったっていいのに」

    【ココロ】「そ、そうなの? なんか……ごめん」

    【カイリ】「謝らなくていいよ。俺はお前の
     そういう優しさが好きなんだ。
     話してくれて、ありがとう」

    【ココロ】「カイリ……」

    カイリの柔らかな言葉は、
    わたしの心をあたたかいもので満たした。

    それだけで、また泣きそうになってしまう。

    だから涙を抑える代わりに、
    カイリの腕に少しだけ体重をかけて、
    ぬくもりを確かめた……。

  • ユユと二人文化祭を楽しんで教室に戻ってくると、
    思いがけない風景が目に飛び込んできた。

    それは――

    【ヨル】「……いらっしゃいませ」

    (…………へ!?)

    【ヨル】「お席までご案内します。こちらへどうぞ」

    【女性客1】「すみませーん! 注文お願いしますー!」

    【ヨル】「はい、ただいま」

    【ココロ】「……っ!?」

    【ヨル】「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」

    【女性客1】「は、はい~……」

    【ヨル】「かしこまりました。
     それでは少々お待ち下さいませ」

    (よ……ヨル……!?)

    ウェイター服を着たヨルが、丁寧な言葉遣いで頭を下げる。
    すると周りの女性客が色めき立ち、ヨルに声をかけたりする。

    【ユユ】「あれ……ヨル、だよね?
     なんであんな格好してるの??」

    【カイリ】「あっお帰り、二人とも!」

    【ココロ】「カイリ!? あ、あれはどういう事なの?」

    【カイリ】「いやぁ、実は……客引きに使えるんじゃないかと思って、
     ヨルのために、こっそり
     特製のウェイター服を用意していたんだ」

    【アメ】「おかげで女性客が後を耐えません。
     今、厨房はシュンが取り急ぎなんとかしています。
     手伝ってあげてください」

    【ココロ】「う、うん。わかった……」

    【カイリ】「しかしあいつ、接客は苦手とか言ってたのに
     意外と様になってるよな。
     喋り方なんて、いかにもで」

    【アメ】「そうですね。始めはだいぶ嫌がってましたが、
     ヨルさんは責任感の強い人ですから……。
     一度手をつけた仕事は、まっとうしたいんでしょうね」

    【ココロ】「…………」

    確かにヨルの接客は完璧で、スラッとした立ち姿に
    上品な振る舞いは、見ていて気持ちが良い。

    (というか……)

    (…………かっこいい、な)

    ヨルが女の子に人気な理由が、
    分かってしまった気がする。

    でも……

    【ヨル】「お待たせして申し訳ございません。
     もう少々、メニューをご覧になってお待ち下さい」

    【女性客1】「あのっ、一緒に写真撮って貰ってもいいですか!?」

    【ヨル】「すみません、今は接客中ですので……」

    【女性客1】「じゃあお店が終わった後ならいいですか?
     また後で来ますから!」

    【ヨル】「そ、それはちょっと――」

    (…………やっぱりモテてる)

    (……なんだろう、また、もやもやする……)

    (なんだか……面白くない……)

  • 【アメ】「少し、生前のことを思い出していたんです」

    【ココロ】「アメの生前のこと……?」

    (そういえば、アメの生前のことは
     聞いたことがなかったかも。
     ……どんな子だったんだろう?)

    (興味はあるけど……でも、こういうのって
     聞いてもいいのかな? ううん、デリケートな問題だよね)

    (ずかずか入り込んで嫌われちゃうのも嫌だし。
     ……うん、アメが話してくれるまで待とう)

    (……でも、やっぱり気になる……)

    逡巡していると、アメが
    心を読んだかのようなタイミングで口を開いた。

    【アメ】「気になりますか」

    【ココロ】「え、そ、そんな……!
     どうしよう、また顔に出てた?」

    【アメ】「まあ、そんなところです。
     ……別にいいですよ。
     隠してるわけじゃないですし」

    そう言うと、アメはいつも通りの口調で、言葉を紡いだ。

    【アメ】「僕の生前の名前は、『蛍』と言うんです。
     アメというのは苗字から取ったもので、下の名前は蛍」

    アメの周りに、ぼんやりした光が明滅して、
    ふわふわと飛び回っている。
    その現実感のない光景に、一瞬眩暈がした。

    【アメ】「だけど、生前僕は本物の蛍を見た事がなかった。
     図鑑でしか、その姿を知らなかった」

    そう言うと、アメの細い指先がそっと蛍の光を追った。

    蛍の光はアメの指先に近づいて、
    そしてまた気まぐれに離れて行く。

    【アメ】「けれど実際に目の当たりにすると、
     こんなにも幻想的な光を灯すんですね」

    アメの目が細められる。
    その目の先には、淡く光る蛍。

    【ココロ】「うん。わたしも初めて見たけど、
     蛍の光って幻想的でとても綺麗……
     ……蛍って、素敵な名前だね」

    わたしの言葉が届いていないみたいに、
    アメの目は蛍を追い続けている。
    その目がどこか悲しそうでわたしは息を飲んだ。

    【アメ】「……生前の僕は、蛍という名前が
     あまり好きではありませんでした」

    【ココロ】「え……?」

    アメのいつも通り淡々とした声。
    だけど、気のせいか、いつもより少しだけ
    悲しそうな声が静かな空間に響いた。

    【ココロ】「どうして?」

    アメはやっとわたしの存在を思い出したように、
    ちらりとわたしを見た。

    【アメ】「蛍は、ほんの短い寿命の中でしか
     光を灯らせる事が出来ない、儚い存在だから……」

    (アメ……?)

    【アメ】「……生前の僕はとても身体が弱くて、
     いつも家で1人で寝たきりだったんです」

    【アメ】「命を失ったのも、病が原因でした」

    【ココロ】「…………」

    さらりと言われたアメの死因。
    何も言えずにいると、
    アメは、そっと息を吐いて続ける。

    【アメ】「蛍という生き物は、余命わずかな自分と被って感じるから、
     僕は蛍も、自分の名前も、好きではありません」

    (アメ……すごく悲しそう。
     こんなに悲しそうな顔、初めて見る……)

    (……わたしがアメの話を聞きたがったから
     アメにこんな表情をさせてしまった。
     わたしはアメに毎日元気をもらっているのに……)

    (少しずつ心を開いてくれて嬉しかった。
     楽しそうなアメの姿を見ることが出来て楽しかったのに……
     こんな表情が見たかったわけじゃない!)

    わたしはアメを元気づけたくて、
    わざと明るい声を上げた。

    【ココロ】「アメが好きじゃなくても、わたしは素敵な名前だと思う。
     わたし、蛍の光が好きだよ」

    【アメ】「……何を……」

    悲しそうに目を伏せるアメの表情を変えたくて、
    必死で言葉を探す。

    【ココロ】「柔らかい灯りを放って、
     周囲を優しい気持ちにさせてくれる、
     蛍の光が大好き」

    【ココロ】「アメも、蛍の光みたいに、
     わたしのことたくさん喜ばせてくれてるよ。
     わたし、アメと過ごす毎日、すごく楽しいもん」

    【アメ】
    「ココロさん……」

    驚いた拍子に、わたしの手の中で
    アメの手がびくりと揺れた。

  • 【シュン】「に、肉……!!」

    【ココロ】「すっ……すごーい、てんこ盛り!!」

    中庭には、バーベキューの準備がされていた。

    机には、所狭しと並べられた、肉、肉、肉……!

    (こんなたくさんのお肉、初めて見たかも!)

    【カイリ】「2人のために用意したんだから、
     たくさん食えよ!」

    【ココロ】「ほ、本当!? やったぁ!
     じゃあ、いっただきまーす!」

    【ココロ】「……んんっ! すっごくおいしい!!」

    【シュン】「こ、こりゃ確かにうめぇな……!!」

    【ユユ】「2人とも、嬉しそう~~」

    【ヨル】「俺たちも食べるがな」

    【シュン】「え? 何だよ、
     オレら2人の分だけじゃねーのかよ」

    【ヨル】「……本気で2人だけで食べる量だと思ったのか?
     胃が肉で埋まる」

    【アメ】「僕達も食べますが、肉は追加も出来ますから、
     どうか死ぬほど食べてください」

    【シュン】「お前が言うと、本当に殺されそうだな……」

    【アメ】「嫌ですね。死神ですから、もう死んでます」

    【ユユ】「おお、アメの死神流ブラックジョーク……」

  • 【ココロ】「……もうあんなの聴きたくない……。
     わたし、死神としてやっていける自信がないよ……」

    【ココロ】「先生、もう……わたしには……」

    (死神の仕事なんて……――)

    【ナミ】「駄目だ」

    【ココロ】「え……?」

    【ナミ】「またすぐに、現世実習を行う。
     その時には今度こそ、自分の手で魂を狩るんだ」

    【ナミ】「……わかったな?」

    【ココロ】「いや……やりたくない」

    (どうしてそんなこと言うの?)

    厳しい言葉に、絶望感が押し寄せる。

    【ココロ】「いやっ、こわい!
     もう、やだよ……わたしには出来ない。
     もう、あんな怖い声、聴きたくない……!」

    【ナミ】「駄目だ……!」

    【ココロ】「ッ!?」

    【ココロ】「せ、先生……?」

    【ナミ】「お前は魂を狩るんだ」

    有無を言わさぬ口調に息を飲む。

    伸し掛かる身体の重みが、
    わたしを押さえつけようとする……。

    間近に迫るナミ先生の瞳には
    見た事もないような暗い色があった。

    【ナミ】「お前には、必ず死神になってもらわなきゃならない。
     何としてでも『力』を手に入れてもらわなければ
     ならない」

    【ココロ】「何、言ってるの……」

    【ナミ】「やるんだ。
     お前には出来るはずだ」

    【ココロ】「先生……っ、手、痛いよ。
     放して……!」

    【ナミ】「……」

    【ココロ】「ナミ先生!」

    手を押さえつける力は、緩まない。

    心の奥まで突き刺すような瞳が、
    わたしを見つめる……。

    (……許してくれないんだ)

    選択権を与えて貰えないわたしには……
    頷く事しか許されない。

    (ナミ先生に、私の意志は通じない……)

    それを肌で感じ取り、
    もがいていた身体から力が抜ける。

    代わりに、わたしの胸を占めたもの……

    ――それは、『諦め』だった。

    【ココロ】「……わかった。
     やるよ……」

    【ナミ】「……それでいい」

    ナミ先生は頷くと、ようやくわたしから
    身を引いてくれた。

    【ナミ】「俺は先に行っているからな。
     身支度を済ませたら、教室に来い」

    【ナミ】「心配するな。お前にならちゃんとできるさ」

    にこりと微笑んで、
    ナミ先生は部屋を出て行った。

  • 【ナミ】「ほら、ここがお前の部屋だ」

    (ここが、わたしの新しい部屋……)

    【ナミ】「とりあえず、最低限必要そうな物はこっちで揃えておいた。
     後は好きに使ってくれ」

    【ココロ】「はい、ありがとうございます」

    (落ちこぼれ生徒の寮っていうから、
     ちょっと不安だったけど……
     住みやすそうだし、結構可愛い部屋かも!)

    (……あれ?)

    【???】「にゃーん」

    【ココロ】「わぁ、綺麗な猫!
     この寮で飼ってるんですか?」

    【ナミ】「いや、勝手に居座ってるだけだ」

    【ココロ】「へぇ~……。
     君の名前は何ていうの?
     ……なんて、聞いてもしゃべれないかぁ」

    【ナミ】「いや、しゃべれるぞ」

    【ココロ】「……へっ?」

    【ナミ】「そいつは、普通の猫じゃないんだよ。
     俺の使い魔のユユだ」

    【ココロ】「えっ、ナミ先生の?」

    (使い魔って、確か……
     飼い主である死神に、
     特別な『力』を与えられた動物の事、だっけ?)

  • 【ココロ】「あ、みんなおはよう! ご飯出来てるよ!」

    【シュン】「変なもん作ってねーだろうな?」

    【ココロ】「作ってないよ。
     今日は、オムレツにしてみた!」

    【ココロ】「じゃ~ん! 見て見て!」

    【アメ】「オムレツ……と言うわりには、
     なんだか珍妙な形をしてますけど……。
     あれ、これは?」

    【ヨル】「……ケチャップで、
     音符のマークが描かれてるな」

    【ココロ】「えへへ、特製生楽祭オムレツ!
     これを食べて、みんなで歌の練習しようよ!」

    【カイリ】「あはは、ココロはやる気だな~」

    【シュン】「こんなの食えたもんじゃねーぞ……」

    【ヨル】「そうだな……」

    【シュン】「ケッ。こんな音符、ぐしゃぐしゃにしてやる!」

    【ココロ】「ああっ、わたしの描いた音符がーっ!」

  • 【ナミ】「だから、そうじゃないって言ってるだろ。
     音を出す前に身構えるから、音程がずれるんだよ」

    【ナミ】「慣れるまでは、手で高低をつけながら
     音の高さを意識して歌ってみろ」

    【ヨル】「は、はい、わかりました……」

    【ナミ】「シュン、お前はそもそも歌う身体が出来てない。
     って事で、その場で腹筋腕立て50回な」

    【シュン】「は、ハァ!? なんで、オレだけっ!」

    【ナミ】「残りのやつらも、個人パートの練習やっておけよ。
     寝てても歌えるぐらい、
     メロディーを身体に染みこませろ」

    【ココロ】「……なんだか先生、
     いつもの授業よりずっと厳しいね」

    【ユユ】「やる気になるとすごいんだよ、ナミ先生は!」

Re:BIRTHDAY SONG~恋を唄う死神~another record

Re:BIRTHDAY SONG~恋を唄う死神~another record
ジャンル : 死後の世界で恋を唄うADV
プラットフォーム : PlayStation®Vita ※PlayStation®Vita TV対応
発売日 : 2016年12月22日(木)発売予定
価格 : 通常版 6,800円+税/限定版 8,800円+税

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